| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
シンポジウム S19-3 (Presentation in Symposium)
野生動物の保全や管理において、個体数は重要な情報の一つである。捕獲再捕獲法は広く普及している個体数推定の手法であるが、これまでは、捕獲率を一定にした単純化や、個体数の推定範囲を恣意的に設定するといった課題があり、より現実的なプロセスを反映したモデルの構築が求められてきた。そこで提案された空間明示捕獲再捕獲モデル(SECR)は、生態プロセス(個体の空間分布)と、観察プロセス(トラップでの個体の捕獲)の両方を明示する階層モデルである。すなわち、個体ごとに存在する活動中心(行動圏の中心)や、活動中心から離れたトラップほど検出率は下がるという、より現実的な仮定を置くモデルである。
対象地の御蔵島では、野生化したイエネコ(以下、ノネコ)による捕食でオオミズナギドリの最大繁殖個体群が激減し、ノネコの管理が喫緊の課題となっている。ノネコの食性は季節的に大きく変動し、夏季にオオミズナギドリを、冬季に外来ネズミ類を主な餌にする。本研究では、開放個体群における個体群動態を表現するJolly-SeberモデルをSECRに組み合わせ、自動撮影カメラを用いてノネコの密度を推定した。
予備解析の結果、子連れ個体が撮影される夏季の密度が冬季よりも低く推定されるという、生物的に非現実的な結果が得られた。そこで、ノネコの行動範囲(σ)を季節的に変動するパラメータとしてモデルに組み込むと、冬季に密度が最大となる傾向は変わらないものの、夏季の密度の過小評価は改善された。σの値は、オオミズナギドリに依存する夏季に小さく、ネズミ類に依存する冬季は大きく2月が最大であった。冬季のσの値に対し、ネズミ類の撮影頻度の負の効果が検出された。
以上の結果から、ノネコは餌2種の季節動態に応じて行動範囲を変化させている可能性があり、餌を求めて行動範囲を広げる冬季、特に2月がノネコの捕獲に適した時期だと考えられる。