| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
シンポジウム S19-4 (Presentation in Symposium)
水産資源の評価・管理において,混入する様々な“不確実性”を取り除き,バイアスが小さく精度の高い資源量推定値を得ることは重要な課題である.資源の相対量を表す資源量指標値は,資源量の動向の把握や個体群動態モデルの入力値として利用される.しかし“生”の資源量指標値は,観察誤差,調査地点の変化,種の誤同定,環境,生物間相互作用などに由来する様々な不確実性を含むため,階層モデルを利用して不確実性を考慮する必要がある.
Vector Autoregressive Spatio-Temporal (VAST) モデルは資源の時空間変化を推定する統計モデルの1つで,遭遇率に関するモデルと,遭遇率が正の時の現存量に関するモデルから構成される.遭遇率と現存量は地理的距離が近いほど類似するという仮定により空間的なバラツキが平滑化されるため,調査地点や発見率などが時空間的に変化しても,現存量の時空間変化を高解像度で精度高く推定することができる.
本発表では,VASTモデルを小型浮魚類の産卵量データへ適用した事例を二つ紹介する.一つ目は,40年間にわたるマサバの産卵量データに適用した例である.長期モニタリングでは予算や天候などさまざまな要因で調査地点は年によって変化する.この調査地点の変化をVASTモデルで考慮した結果,マサバの産卵場は北にシフトしており,その原因は水温の上昇によるものであることが明らかとなった.二つ目は種の同定バイアスを考慮した例である.ゴマサバ卵は卵径の差異でマサバ卵と区別されてきたが,近年のゴマサバ卵の急増はマサバ卵の混在により過大推定されている可能性があった.この問題を解決するために,マサバ卵が多いとゴマサバ卵の採集率が高くなると考え,マサバ卵の量を共変量としてVASTモデルに入れて解析した結果,近年のゴマサバ卵の急増は大幅に下方修正された.またVASTモデルから得られた推定値を産卵量の指標値として用いてゴマサバの資源評価を行うと,資源量推定の精度もまた大きく改善される結果が得られた.