| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S23-3  (Presentation in Symposium)

アユの回遊とカワウの季節移動
Seasonal migration of ayu and cormorant

*坪井潤一(水産研究・教育機構)
*Jun-ichi TSUBOI(FRA)

シンポジウム 脊椎動物のmigration:なぜ、険しい道へ向かうのか︖
~アユの回遊とカワウの季節移動~

坪井潤一(水産研究・教育機構)

魚食性の大型鳥類カワウの移動について、生活史ステージと食性の2つに着目して、紹介する。

1. 生活史ステージ~幼鳥分散~
鳥類の「わたり」というと、冬は暖かい南方へ、や、繁殖のために、といった動機が思い浮かぶ。しかし、「幼鳥分散」とよばれる巣立ち直後の長距離移動も広く知られている。集団繁殖するカワウについても幼鳥分散がみられ、古くて生息密度の高い繁殖コロニーで、頻繁に確認されている。そのため、コロニー内の過密が幼鳥に長距離移動を促す要因の一つと考えられている。ヒナのステージで足環を装着された個体が、その年のうちに、遠く離れた場所で観察される例も少なくない(滋賀県琵琶湖→熊本県球磨川など)。カワウの繁殖コロニーは、絶滅が危惧された1970年代には全国でわずか3か所になったが、2020年現在、関東地方だけでも100か所以上に急増した。幼鳥分散はV字回復の原動力といえる。

2. 食性~アユにつられて移動する~
カワウは高い移動分散能力を持っているため、餌となる魚類のバイオマスの時空間分布に合わせ、理想自由分布をしていると考えられる。河川における魚類のバイオマスは、季節変化が大きい。とりわけ、個体数が多く、成長速度も極めて速いアユに強い影響を受けており、アユが大きく成長した秋にバイオマスが最大となる。演者が山梨県富士川水系で行った調査では、投網1投あたりの漁獲量とカワウ個体数に高い相関がみられた。春、海から川へアユが遡上するころカワウが内陸で増え始め、秋の産卵期にアユとともに産卵場所である下流域へ戻っていくという季節移動をしていると考えられる。富士川の上流域には、徒歩鵜(かちう)と呼ばれる船を使わない鵜飼漁がアユの伝統漁法としてのこっており、カワウはまさに弟のような鳥であったのかもしれない。


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