| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
シンポジウム S23-5 (Presentation in Symposium)
従来アカウミガメは、未成熟期初期は外洋で主に浮遊生物を食べ、ある程度成長すると浅海へ加入して主に底生動物を食べて繁殖に備えると考えられてきた。しかし安定同位体分析と衛星追跡を同一個体に併用して産卵期前後の摂餌域を調べたところ、未成熟期のように外洋を利用し続ける個体もいることがわかってきた。外洋摂餌者は浅海摂餌者よりも有意に体サイズが小さいが、雌ウミガメは性成熟に達した後はほとんど成長しないので、この現象は成体雌が加齢とともに摂餌域を外洋から浅海へ変えることを意味しない。成体雄も雌同様、体サイズにより摂餌域を異にしていることが示唆された。
この回遊多型が遺伝的なものなのか検証すべく、外洋と浅海の摂餌者間でミトコンドリア(mt)DNA調節領域350塩基の配列と核DNAマイクロサテライト5座位の変異を比較した。遺伝的構造がみられなかったため、回遊多型は環境的なものであることが示唆された。
外洋での初期生活中に成長の速かった個体が外洋に残留し、成長が遅かった個体が浅海へ移行するという多型の出現機構を想定し、両摂餌者の初産齢を比較した。年齢指標として用いた表皮テロメア長に有意な違いがなかったため、仮説を支持できなかった。用いたマーカーの解像度の問題なのかもしれない。
型間における遺伝的分化の欠如から回遊多型は環境的なものであるとみなしてきたが、これにもマーカーの解像度が関わるため、遺伝子分析以外の方法からも多型の後天性を支持する必要がある。多型が環境的なものであれば型間で適応度は釣り合わない。これを検証すべく、1)子供の量、2)子供の質、および3)巣からの脱出から初産までの生残率、を両摂餌者間で比較して適応度を計算した。ほとんどの状況で外洋摂餌者の適応度が高かったため、本種の回遊多型は環境的に維持されていることが強く支持され、外洋での初期成長条件に応じた地位依存選択で維持されていることが示唆された。