| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
シンポジウム S23-6 (Presentation in Symposium)
北海道周辺では、冬季にトド(Eumetopias jubatus)の来遊が観察される。国内に繁殖場はなく、標識個体の観察から、オホーツク海周辺にあるサハリンや千島列島などの繁殖場で生まれた個体が来遊していることが明らかとなっている。国内では、深刻な漁業被害を背景に有害獣駆除が行われており、個体の移動や系群、生活史を知ることが保全・管理上の重要な課題である。
トドは繁殖期(夏季)には繁殖場に集結し、ハーレムの維持と出産・育仔のため、行動圏は繁殖場周辺に制限される。一方、エネルギー要求量の高まる冬から春にかけては、十分な餌環境を求め行動圏を広げる。この繁殖場と越冬地との季節的な移動について、標識再補法による断続的な情報とテレメトリによる連続的な情報を組みあわせ、理解を試みた。
トドの捕獲および発信機装着を行った知床半島沿岸はメスに偏った越冬地である。追跡したメスの冬季の行動圏は、成獣・若齢獣ともに知床半島~北方四島域に限定された。繁殖期を迎える5月下旬から6月上旬になると成獣は長距離移動を開始し、500km離れた繁殖場に移動したが、若齢獣は繁殖期も同海域に留まり、発育段階に応じた季節移動を行うことが示唆された。また、繁殖場における標識個体の観察から、年齢、妊娠の有無、前年の子の有無によって繁殖場への移動時期が異なることも示唆された。一方、オスはより長距離の季節移動をすることが知られており、千島列島からオホーツク海を横断し北海道西部の日本海側に越冬地を求める個体も多い。オホーツク海は冬から春にかけて海氷が大きく広がる海域であり、嫌氷性のトドの行動を制限する。オホーツク海のトドの季節的な移動には海氷も深くかかわっていると考えられる。