| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S24-2  (Presentation in Symposium)

アゲハチョウの訪花行動に関わる視覚情報
Visual cues for flower foraging in Japanese yellow swallowtail butterfly, Papilio xuthus

*木下充代(総合研究大学院大学)
*Michiyo KINOSHITA(SOKENDAI)

ナミアゲハ(以後アゲハ)の訪花行動は、花の探索・接近・着地・吸蜜の四つのステップからなる。昼行性のアゲハが、この全ステップで様々な視覚能力を使うことは容易に想像できる。花の探索では、ある程度の距離から色や形など花の視覚的特徴を見分ける必要がある。続く花への接近では自分と花との距離を測り、着地や吻を伸ばすときは近距離でその細部を正確に見ているに違いない。
アゲハは、視覚情報の入口である眼の視細胞構成が最もよくわかっている種のひとつである。彼らの眼は、視覚度2度程度の範囲から光を受け取る個眼が約1200個集まってできている。そこには、紫外・紫・青・緑・赤・広帯域に感度を持つ6種類の光受容細胞が含まれている。これら6種類の光受容細胞は、3タイプの異なる組み合わせで個眼に入っている。各個眼タイプは、異なる比率で不規則に複眼上に並ぶ。
網膜にある色受容細胞の情報は、色や明るさなど花の視覚的特徴を認識する系と、動き知覚の系に分かれて使われるようだ。私たちは求蜜行動を指標とした行動実験で、アゲハがヒトと同様に色の恒常性や色対比現象を含む色覚を持つことを明らかにした。その波長の弁別能は非常に鋭く、紫外・青・緑・赤受容細胞を基盤としている。また、彼らは個眼ひとつ分の大きさの物体であれば、その色を見分けられる。色覚に関わる4種類の光受容細胞は、明るさや境界知覚の基盤でもあるようだ。一方、多くの昆虫が緑受容細胞由来の情報に依存する動きや距離の測定には、緑受容細胞に加え赤・広帯域受容細胞も関わるようだ。高い空間分解能を要する動き知覚に異なる色受容細胞から得られる色コントラスト情報を使うことで、アゲハは複眼の低い空間分解能を補っているのかもしれない。


日本生態学会