| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
シンポジウム S24-3 (Presentation in Symposium)
送粉動物(送粉者)の認識機構が植物の繁殖や進化に与える影響は、送粉生態学の主要テーマの一つとして数多くの研究が行われてきた。しかし、送粉者の認識機構が、群集スケールの現象にどう反映されているのかに関する研究は、ほとんど行われていない。本発表では、動物の認識能力の一つである「色覚」に着目し、送粉者の分類群によって色覚が異なることが、植物群集の性質にどう影響するのか、私たちが行なってきた研究を通して議論したい。
紹介する研究は、送粉者相の異なる6地域(①モンゴルの半乾燥草原、②長野県菅平の半自然草原、③富山県立山の高山帯、④スウェーデン北極圏の亜高山帯、⑤スウェーデン北極圏の高山帯、⑥ニュージーランド南島の高山帯)を比較した研究である。これらの地域で、動物媒植物種の送粉者組成、花色(反射スペクトル)、花形態を、網羅的に記録した。
その結果、どの地域でも、ハエ目の訪花が多い植物種は、ヒトの色覚で白や黄色の花が多く、花筒が短い(または花筒がない)花ばかりであったが、ハナバチ類やチョウ類の訪花が多い植物種には様々な花色を持つものが含まれており、花筒長も様々であった。そのため、ハナバチ類やチョウ類の割合が高い地域の植物群集ほど、花色や花筒長の多様性が高かった。また、ハエ目送粉者の割合が極端に高かったニュージーランドの高山帯を除く、すべての植物群集で、花筒長の長い植物種ほど、花色が青や紫である確率が高いという結果も得られた。
これらの結果は、送粉者の分類群によって認識能力(ここでは色覚)や外部形態が異なるため、送粉者相の異なる植物群集間では、それに応じて花シグナル(ここでは花色)の組成や、花形態の多様性に違いが生じることを意味している。また、送粉者の色覚と外部形態が独立でないため、花色と花形態が相関進化していることもわかった。総じて、送粉者の認識機構が植物群集の性質に反映されることが示された。