| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
シンポジウム S24-4 (Presentation in Symposium)
約7000種の維管束植物が自生する日本列島は世界でも有数の植物多様性を誇る地域であり、その特色の一つとして高い固有性をあげることができる。中でも特に多様性が際立っている植物の系統群がユキノシタ科チャルメルソウ節、ウマノスズクサ科カンアオイ節、そしてサトイモ科マムシグサ節である。私たちは、これらがいずれも日本列島を舞台として種分化・多様化を遂げたと考えられることから、植物種分化の研究モデルとして注目している。花形質の多様化が著しいこれらの系統群では送粉者による生殖隔離の成立が特に重要である可能性がある。今回、これらいずれの系統群においても種ごとに特異的なハエ目昆虫が送粉者として働いており、その特異性には花の香りが関与している可能性が高いことを示す。チャルメルソウ節においては、系統群全体を通じて花の香り成分組成は比較的単純であり、ライラックアルデヒドやベータカリオフィレンを含む花の香りが送粉者との関係と関連していることを発見し、このことから種分化に関連する遺伝子を特定することに成功している。カンアオイ節においては、花の香りは種ごとに大きく異なっており、またその組成も極めて複雑であることが明らかになってきた。しかしその中でも、ジメチルジスルフィドを含む花の香りが繰り返し進化していることが分かっており、この形質と送粉者との関係が興味深い。最後にマムシグサ節では、多くの種で花の香り成分は極めて単純であるか、あるいはほとんど検出できなかった。しかしただ1種ユキモチソウでは非常に強いきのこ臭を放出しており、きのこ擬態によって同所的に生育する近縁種マムシグサとは全く異なる送粉者を誘引し、生殖隔離を成立させていた。これらの知見から、花の香り形質とそれを支配する遺伝子群の多様化・進化が植物の種多様化の重要な原動力として働くという仮説を提唱したい。