| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
シンポジウム S27-2 (Presentation in Symposium)
流域は上流と下流の「つながり」があって初めて成立するシステムである。しかし、流域における栄養物質のダイナミックな動きと水辺の生き物との関わりを私たちが目の当たりにすることは殆どない。原因と結果が流域内の広範囲にわたって分布しているために、栄養循環と生物多様性の間の連関は、現場で川を眺めているだけでは見えてこないのである。このことが、私たちが日々上流域から享受している恩恵や、日々下流域に与えている影響に思いを巡らせることを難しくしている。
私たちは野洲川流域全体の水生生物の分布と栄養循環の関係を可視化することを目的に、流域スケール(鳥の眼)で調査を行ってきた。日常の暮らしの中では見えにくい流域内の「つながり」や人間活動の影響の空間的広がりを科学的に評価することにより、地域活動や地域間のコミュニケーションを促進し、ひいては流域ガバナンスの進展に貢献することができるかもしれないと考えている。たとえば、鈴鹿山脈から運ばれる栄養物質と野洲川の生物多様性との関係を可視化し、あるいは野洲川に流出する汚染物質が下流の琵琶湖生態系に及ぼす影響をわかりやすく示すことで、野洲川流域に暮らす人々の環境配慮行動の推進力を高めることができるかもしれない。本発表では、本プロジェクトの調査結果をもとに野洲川流域の生物多様性と生態系機能の現状について紹介する。とくに、多様なステークホルダーが存在する野洲川流域において「鳥の眼」で栄養循環と生物多様性の関係を紐解くことで、流域の健全性に関わる4つの歯車(栄養循環、生物多様性、地域活動、しあわせ)の連関とそれらを動かす広域的な環境要因について考えてみたい。