| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S27-3  (Presentation in Symposium)

水田の生物多様性と栄養循環を高める超学際研究の展開
Transdisciplinary research for biodiversity and nutrient cycle in rice field

*石田卓也(地球研)
*Takuya ISHIDA(RIHN)

水田は、日本の主要な農業形態で湿地を提供することから、水を利用する昆虫や両生類などの生物の生息地として働く。また日本のような点源負荷源への対策が進んだ地域では、河川や湖沼への主要な栄養塩負荷源となる。そのため、水田の保全は流域の生物多様性と物質循環を改善するために重要である。私たちは、担い手となる農家らが犠牲にならず、主体的にやりがいを持って水田を保全する、という理想形に向かって超学際研究を行った。
調査地は、滋賀県の野洲川中流域に位置する小佐治地区で、人口約560人の集落で、水田が主要産業になっている。調査は、地域の環境保全団体、企業、農業組合、行政と研究者が連携をしながら行った。研究者は、環境社会学、地域計画学、生態学、生物地球化学などをバックグラウンドとするメンバーらが集まった。研究は、①住民らとの話し合いによる研究計画の作成、②調査・解析、③結果の共有、④研究計画の改善と①から④のサイクルに従って行った。
ここでは冬期湛水に関する研究について紹介する。冬期湛水とは、通常乾田化している冬の水田に、灌漑水貯めておく伝統農法のことである。小佐治地区では、環境保全活動として冬期湛水水田の整備を進めている。住民らと調査を進めていくと、冬期湛水がニホンアカガエル(Rana japonica)の産卵場所として機能していることがわかった。さらに冬期湛水をすることで、施肥後の水田からのリン流出を抑えられることが土壌培養実験によって明らかとなった。これらの結果を住民らと共有することで、住民らは自分たちの活動が地域と流域の生物多様性と物質循環の改善に効果をもたらすことを実感し、やりがいに繋がっていった。地域の文化や自然環境に合った活動を行い、身近な生物を指標にしたり結果を共有したりといった工夫を取り入れることが、地域のしあわせを犠牲にすることなく保全活動をする一つの形ではないか。


日本生態学会