| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
シンポジウム S27-4 (Presentation in Symposium)
内湖は、コイ科魚類などの在来魚の繁殖・生育場として琵琶湖の生物多様性を支え、また、食・利水・治水を通じて周囲で生活する人と深い関りのある場所でもある。水質基準規制を基軸とする施策で生じた自然と人の関係性の希薄化と湖岸改変や琵琶湖の水位による内湖と琵琶湖の間の生息地つながりの弱化が、内湖保全の課題と考えられる。内湖のなかでも汚濁の進んでいた平湖・柳平湖(滋賀県草津市志那町)では、1998年以降に行政による水質改善事業を経て、住民が内湖保全の取り組みを担う転換期を迎えている。住民は、いったんは内湖の埋め立てに同意していたが、内湖を残すことになって利活用を進める取り組みを進めてきた。こうした経緯と内湖保全をめぐる課題を研究のスタート地点とし、住民が主体的に保全を進めるための実践研究を試みた。住民の抱える課題は「内湖の水質の持続的な保全」、「在来魚が産卵できる内湖の復元」、「活動を担う体制の構築」である。内湖の物質循環や在来魚のにぎわいの鍵となる滞留時間や在来魚の生息地つながりについて科学的調査を行い、協議会や聞き取りの場で住民と調査結果について話し合った。また、住民による透視度調査や漁業関係者の漁獲量と養殖真珠母貝成長に関する情報をつなぎ合わせて内湖の物質循環や生息地としての実態把握と住民の関心や満足度を調べ、保全取り組みの課題を確認した。明らかになった内湖の流入量の通年変化に基づき、住民の要望する「内湖の水質の持続的な維持」と「在来魚の遡上経路の確保」の両立を考慮した導水量調整の運用計画案について住民と相談を進めている。現在、志那町住民は「世代をつなぐ農村まるごと保全向上対策(多面的機能支払交付金制度)」のもとで活動計画をつくり、環境に配慮した町づくりを自治会で取り組んでいくことになった。活動の促進要因と阻害要因を検討しながら、住民の取り組みが展開する様子を明らかにした。