| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S27-5  (Presentation in Symposium)

シランサンタローサ川流域における開発影響下のコミュニティが直面する課題
Challenges in communities under effects of rapid urban developments in Silang-Santa Rosa watershed

*西前出(京都大)
*Izuru SAIZEN(Kyoto Univ)

 フィリピンにおいて、経済発展に伴い加速的に進む都市化は、開発と隣接する地域や周辺農村地域に様々な影響をもたらしている。未発達なインフラ整備による流域の環境悪化、土地改変による洪水の発生、水需要増加による水源の競合、地価の上昇に起因する地主と小作農民の土地所有を巡る問題などが現在進行形で存在している。首都マニラに程近いラグナ湖流域は、それらの課題が如実に顕在化していることで知られている。過去には流域の現状把握・改善・将来予測のために数多くの取り組みがなされてきたが、実際にその流域に暮らす住民の現状、特に開発隣接地域の農村が抱える課題については、なかなか外部にいる我々は目にすることができない。本講演では、発表者らが実際に現地で行った長期の参与観察や調査を元にして開発影響下の農村に暮らす住民の目線からみた以下に述べるような現状と課題を報告する。
 対象村には、様々な種類の水利用の形態が存在しており、また、発展の恩恵を受けている人々の経済水準の違いによって、利用している水源が異なっている。比較的恵まれた環境にある地区の住民は、上水道を利用して生活しており、先進国の人々と同様に、かつてのように河川を利用する頻度は少なくなり、自然との距離は徐々に遠くなっている。一方で河川を利用するのは、より住環境や経済的に恵まれない人々であり、そうした河川は上流域の開発の影響で通常の流量は減り、魚や蟹など得られる自然の恵みは減少し、そして降水時の突然の流量の増大が起きるなど過度な開発はカルメン村を取り巻く自然環境さえも変えつつある。
 対象村では、土地の使用権の喪失、外部からの居住者の流入、水需要の高まり、住民の生業の変化などが主にみられた。一方で、聖なる泉を信仰したり、河川で魚や蟹を捕まえるなど、かつてのように自然と離れずに付き合う人々も少なからず存在し、村の地域資源は上手に活用されている面も見受けられた。


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