| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
自由集会 W16-2 (Workshop)
微生物はその高い種多様性と微小な体サイズゆえに,多様性の全貌解明が困難である.陸生微生物の中でも肉眼で見える子実体を形成するきのこ類は比較的探索が進んでいるが,目立たないもしくは見えない系統が見落とされることにより,その多様性は過小評価されていると考えられる.本研究では,木材腐朽性きのこ類の祖先的系統と考えられているアカキクラゲ類(担子菌門,菌界)の包括的な多様性解明を目的とし,子実体採集,分離培養,eDNA解析を併用した多様性探索を行った.筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所内のアカマツ林にて,目視による子実体採集,アカマツ枯死枝からの改変Dilution-to-extinction法による分離培養,同枯死枝のeDNAメタバーコーディング解析(eDNA)を組み合わせた定期調査を3年間継続した.調査の結果,検出された合計28 OTU(Operational Taxonomic Unit)のうち,子実体採集と分離培養がそれぞれ10,eDNAが27を検出した.系統解析の結果,eDNAはアカキクラゲ類のさまざまな系統から広くOTUを検出していた.一方,子実体採集と分離培養はeDNAで検出されたOTUの約半分を得るにとどまっていた.この結果から,今回調査した環境中には肉眼で見えない,もしくは培養困難な系統が多数潜在していることが示唆された.また,eDNAと分離培養により子実体採集では得られなかった初期分岐系統が検出されていた.これらの系統は極微小な子実体を形成するか,胞子や菌糸の状態で潜在している系統であると考えられる.子実体発生に頼らない多様性探索により,従来の目視調査では見落とされてきた系統進化上重要なきのこ類系統を検出できることが示された.きのこ類のより正確な多様性評価と系統推定に向けて,eDNAや分離培養などの子実体採集以外の方法も併用することが重要であると考えられる.