| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
自由集会 W16-4 (Workshop)
群集生態学の理論や手法は、動植物を対象とした研究をもとに発展してきた。目に見えない菌類では、永らく群集内の種をリストアップすることが困難であり、動植物のようにランダムサンプリングによる群集の記述すらできなかった。しかし近年、DNAメタバーコーディングなどの手法の発展により、その場にいる菌類を検出することができるようになり、菌類でも動植物と比較可能なサンプリングや解析手法による群集生態学研究が行われるようになった。一方、DNAやタンパク質を用いた集団遺伝学研究は、菌類でも動植物と同様の手法を用いることが可能であり、特に病原菌や腐朽菌などで比較的多くの研究が行われている。
外生菌根菌はブナ科・マツ科など森林で優占的な樹木と共生し、宿主植物との間で相利的な養分の交換を行っている菌類の機能群である。その生態的な重要性や子実体の商業的価値ゆえ、外生菌根菌においてもこれまで様々な群集生態学・集団遺伝学研究が行われてきている。演者もこれまで、本邦ブナ林における外生菌根菌群集の地理パターンや複数年にわたる時間動態、絶滅危惧種ヤクタネゴヨウと特異的に共生する菌根菌種の集団遺伝構造の調査を行なってきた。本発表では、演者のこれまでの研究に加え、外生菌根菌の群集・集団遺伝学研究のレビューを行うことで、外生菌根菌を対象とした群集・集団遺伝学研究の現在を概説する。次に、これらの研究の中で明らかになってきた菌類と動植物の共通点、すなわち、集団間の地理的距離の増加に伴い遺伝的距離も大きくなるといった点や、反対に菌類ならではと思われる特徴、例えば、種多様性や時空間的な種組成の異質性が高い一方で優占する科は地域間で共通であるといった点についてまとめることで、菌類研究が群集・集団遺伝学研究にどう貢献できるかを考察する。