| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
自由集会 W21-2 (Workshop)
アリやハチを含む膜翅目昆虫における単数倍数性の性決定は真社会性の進化を促す要素の一つであり、背景にはヘテロ型なら雌、ヘミ・ホモ型なら雄になる単一の性決定遺伝子座CSDが存在する。ミツバチでは性決定初期シグナルcomplementary sex determinerが下流の feminizer(transformerのホモログ)やdoublesexを制御し性分化に至る。しかし 単一のCSDで制御される機構には、近親交配で生じた次世代の半分が二倍体の雄(ほとんどの場合、不妊または致死)になる弱点がある。
近年、一部の膜翅目昆虫において近親交配を回避する繁殖様式やコストを抑制する性決定機構の進化が示唆されている。これらの種では二つ以上のCSDを獲得し、少なくとも一方がヘテロ型であれば雌に、全てがホモ型の場合のみ雄になるため、近親交配で生じる不妊雄の頻度が25%以下に押さえられる利点がある。興味深いことに、雌への分化を方向付けるヘテロ型CSDと雄への分化を方向付けるホモ型CSDが混在した個体も表現型は雌になり雌雄の中間型が生じない。したがってCSDの複数化に伴い二つ以上の相反する性決定初期シグナルが生じても、正常な性分化が保証される分子基盤の存在が予想される。我々は二つのCSDを獲得したウメマツアリにおける性決定機構の解明に取組んでいる。これまでの結果から、本種における一つ目のCSD由来のシグナルはミツバチ同様カスケードを辿り、二つ目のCSD由来のシグナルは、このカスケードの中間に位置するfeminizerに統合されることが示唆されており、多くの昆虫にみられるdoublesexやその発現制御に関わるfeminizerが、性決定初期シグナルの複数化においても重要な役割を果たしている可能性が示されている。今回は上記の研究に加え、性決定機構の分子基盤のさらなる解明に向けた機能解析についても紹介したい。