| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
自由集会 W21-3 (Workshop)
トンボ目昆虫では、一部の種において雌特異的な色彩多型が出現し、雄に体色の似る雌(オス型)と、雄とは体色の異なる雌(メス型)が存在している。トンボ目の雌色彩多型は雄の性的ハラスメントによって負の頻度依存的に維持されており、トンボ目の広い分類群で独立に複数回獲得されている。しかし、雌色彩多型に関わる遺伝的制御機構は不明であった。そこで雌色彩多型をもつアオモンイトトンボにおいて発色が行なわれる羽化直後の個体で遺伝子発現解析を行なった。その結果、表現型間で発現量の異なる遺伝子として、昆虫の性差を生み出す転写因子であるdoublesex(dsx)や、体色に関わるblack、ebonyが検出された。さらに、dsxでは雄が短い転写産物(dsx♂)を、メス型の雌では長い転写産物(dsx♀)を発現する一方、オス型の雌ではdsx♂とdsx♀の両方を発現していることが観察された。これらのことからdsx♂がblackやebonyの発現を制御することで体色をオス化させることが予想される。本研究では、RNAiによる本種におけるdsxの機能解析とそれに伴うblackとebonyの発現変動を明らかにすることを目的とした。dsx♀特異的な領域とdsx♂とdsx♀の共通の領域でsiRNAを設計した。dsx♀をノックダウンした場合は表現型に影響がなかったが、dsx♂とdsx♀をノックダウンした雄とオス型では、胸部においてメス型の体色がみられた。次に、体色が変化した雄とオス型のノックダウンした領域とそれ以外の領域で、dsx♂とblack、ebonyの発現量を測った。dsx♂は発現抑制されていた一方、blackとebonyの発現量は高くなっていた。これらのことからdsx♂がメラニン沈着やクチクラ硬化に関わることの知られているblackとebonyの発現を制御することで雌の体色を支配していると考えられる。