| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


第24回 日本生態学会宮地賞/The 24th Miyadi Award

寄生と共生をめぐるナチュラルヒストリー
The natural history of mutualism and parasitism

末次 健司(神戸大学理学研究科)
Kenji Suetsugu(Graduate School of Science, Kobe University)

私は,個々の生き物の「生態(生き様)」の研究をしていますが,種の分布や個体数変動の機構の解明を目的とした,いわゆる「王道」の生態学研究を行っている訳ではありません.そのため,なんとか自身の研究を「生態学」に昇華させることができないかと,日々苦闘しながら研究をしています.とはいえ自分の不得意なことを無理に行うのは楽しくないので,ナチュラルヒストリー的な要素が強い研究を続けつつ,どのような文脈で語れば,より多くの人に面白い,あるいは,重要だと思ってもらえるかを考えながら研究に取り組んでいます.
私が,特に興味を持って研究しているのは,生き物同士の共生関係です.共生関係というと,お互いがお互いを助け合う仲睦まじい関係性のように聞こえます.しかしながら,相利共生でさえ,お互いが搾取しあった結果,たまたま両方のパートナーが利益を得ているに過ぎません.つまり共生関係は,実際は緊張感に満ちた関係で,すきあれば相手を出し抜こうとしている状態なのです.実際に,もともと相利共生のパートナーであった生物に一方的に寄生するように進化した生物が沢山存在しています.例えば,送粉共生系では,綺麗な花を咲かせるものの,実際には蜜などの報酬を与えず,送粉者を騙して花粉を運んでもらう植物が多数存在しています.また菌根共生系を見渡すと,菌根菌に光合成産物を与えないばかりか,光合成をやめ逆に菌根菌から糖を含む全養分を搾取する菌従属栄養植物が存在しています.また進化的なスケールを考えずとも,環境条件に応じて損得のバランスが変動し,相利共生や寄生と一概に定義できないような共生関係も知られています.つまり寄生と相利共生は対立する概念ではなく,表裏一体で連続性を持つ存在なのです.
私は,被子植物をめぐる三つの普遍的な共生関係,すなわち送粉共生,種子散布共生,そして菌根共生に関心を持ち,研究を進めてきました.自身が発見した植物と植物を取り巻く共生者の関係性を例に挙げながら,相利共生と寄生の狭間をたゆたう共生関係の奥深さを少しでもご紹介できればと思っています.


日本生態学会