| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
第24回 日本生態学会宮地賞/The 24th Miyadi Award
生物は食べ物や生息地をめぐって争っているのに、なぜ、強い者だけでなく弱い者も生き残り共存できているのだろうか。自然界では様々な生物が共存し、一見安定しているように見えるのに、なぜ、何らかの出来事をきっかけに突如劇的な変化が生じるのだろうか。私は、こうした謎を解き明かすことを目指し、生物どうしの相互作用に着目した研究を行ってきた。
学部時代に先輩から教えられたIlkka Hanskiの卒業論文には、「キノコを住処とする昆虫の生態がなぜこれほど多様なのか」という問題に対し、進化生態学や個体群生態学などあらゆる視点で迫る鮮やかな研究の世界が広がっていた。私はその世界に魅せられ、キノコに集まる昆虫群集の共存機構を最初の研究テーマに据えた。マニアックなシステムの自然史からこそ生態現象の新たな発見が生まれると信じていた。自ら研究を計画し、サンプリングを行い、昆虫標本が増えることに楽しさを感じた。得られたデータの解析方法を探り、膨大な量の論文を読み、自身の研究がパッチ状環境の生態学と呼ばれる分野に位置付けられることを知った。2年間取り溜めたデータは、シミュレーションのプログラムを試行錯誤することで結果を導き出した。しかし、その結論は昆虫群集の共存は集中分布モデルで説明できるというありきたりなものだった。マニアックな研究材料の特徴を群集生態学の新規性につなげることができなかったのである。これが初めての挫折であり群集研究の難しさに打ちのめされた瞬間だった。
あれから10年の時が過ぎ、少しずつ自分が納得できる生態学研究をできるようになってきた。これまでを振り返って、細菌・菌類・原生動物・植物・昆虫まで幅広い生物群や研究テーマをわたり歩いてきたのは、なぜだろうかと考える。その答えは、生物間相互作用についてもっと知りたいという思いがあったからに違いない。しかし、理由はそれだけではない。様々な生物やスケールの生態学を融合し、各分野を超えて興味関心の糊代を広げ重ね合わせることが求められる時代が近づいていることに気づいていたからだと思う。これまで、生態学を俯瞰できるような研究者になりたいと、まだ見ぬ答えに向かって闇雲に走ってきたように思う。今日この日を迎え、これから歩むべき道に一筋の光が差してきただろうか。自分の信じる生態学の道をまっすぐに進んで行きたい。