| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


第24回 日本生態学会宮地賞/The 24th Miyadi Award

進化生物学と群集生態学の統合に向けて
Toward an integration of evolutionary biology and community ecology

山道 真人(東京大学 大学院総合文化研究科/クイーンズランド大学 生物科学部)
Masato Yamamichi (Graduate School of Arts and Sciences, The University of Tokyo / School of Biological Sciences, The University of Queensland)

生態学と進化生物学は、隣接する研究分野でありながら、注目する現象や時間スケールなどが異なることから、その統合が妨げられてきた。本講演では、「生態 + 進化」と「生態 ≈ 進化」という2つの観点から、(群集)生態学と進化生物学の統合と発展に向けた展望を議論したい。

近年になって、短い時間スケールで起こる迅速な進化(対立遺伝子頻度の変化)が、個体群・群集・生態系における生態学的プロセスに影響することが明らかになってきた。進化が生態に影響することで、集団サイズ・移住率・適応度地形が変化してさらなる進化を駆動するため、進化と生態の間に相互作用が生じうる。このような生態-進化フィードバックに関する研究は、捕食者と被食者の個体群動態の文脈で研究されることが多かった。しかし、時間スケールの違いという壁を取り除き「生態 + 進化」という視点から考えることで、生態学と進化生物学の多様なテーマに対して、さまざまな統合が可能になると考えられる。例えば、種分化や性選択・性的対立などの種内相互作用に基づく進化が、個体群動態を介して多種共存・生態系機能に影響することで、どのようなフィードバックを起こしうるだろうか。

一方で、「生態 ≈ 進化」という観点からは、種内の遺伝的多様性と、群集の種多様性という、異なる階層における生物多様性研究の類似性を考える。例えば、時間的な環境変動がどのように多様性の維持を促進するか、という問題に対して、群集生態学では、低密度の種の侵入増加率から、ストレージ効果・相対的非線形性などのメカニズムの相対的貢献度を定量化する共存理論が発展してきた。これに対して集団遺伝学では、拡散近似などのアプローチから、ストレージ効果が遺伝的多型を維持するという理論が構築されてきた。これらを詳細に比較することで、生物学の異なる階層における多様性の維持メカニズムの差異と共通性、そしてそれらの相互作用(生態-進化フィードバック)を明らかにし、さらなる理論の発展に貢献できる可能性があることを示したい。


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