| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


第8回 日本生態学会奨励賞(鈴木賞)/The 8th Suzuki Award

気候変動影響を緩和する生物多様性維持の大切さ
Biodiversity as a solution to mitigate impacts of climate change on ecosystem functioning

久野 真純(カナダ・レイクヘッド大学自然資源管理学部)
Masumi Hisano(Faculty of Natural Resources Management, Lakehead University)

近年、生態系を活用した気候変動への対応策の重要性が増している。とくに、二酸化炭素の貯蔵源として重要な役割を果たす森林生態系の機能を維持することは、劇的な環境変化を経験する21世紀のなか、極めて重要な課題のひとつである。

そこで私は、「樹木の多様性を高めることで、気候変動が森林生態系機能に与える影響を緩和できるか」という課題で取り組んだ。まず、その概念を構築するため「気候変動が森林生態系機能と植物の多様性に与える影響」、および、「環境変動下における多様性と生態系機能の関係性(以下、生物多様性生態系機能)」に関する文献レビューを行った。そして、「環境が何らかのダメージを受けた撹乱下における生物多様性生態系機能」の枠組みが、気候変動下に応用可能であるという着眼点を提示した。また、生物多様性が気候変動の影響を緩和するためには、「環境変動の前と後で、多様性の生態系機能への正の効果が失われたり、方向性を変えたりせず、一貫して認められる」という条件を満たす必要があると定義づけた。

しかし、上記の研究でレビューしたデータの多くは、短期的かつ極端な気象現象を扱ったものであった。そこで次に、カナダの大規模長期森林データを用いて、本概念が「自然条件下、とくに長期的気候変動下においても適応可能であるか」ということを検証した。約60年にわたる長期の気候変動下では、種多様性の高い森林では、樹木の成長や新規加入による、より高い森林の生産性が見られたが、種多様性の低い森林では、その生産量は減少した。また、どちらの森林でも全体として枯死による森林の減少が見られた。しかし、種多様性の高い森林では、枯死による森林の減少は、多様性の低い森林よりも少なかった。その結果、種多様性の高い森林では、種多様性の低い森林に比べて、気候変動に伴う森林の総増減量のマイナス変化が抑えられていた。これらの結果から、樹木の種多様性が自然林の長期気候変動に対する耐性を高める可能性が示唆された。

これまで、「気候変動が生態系機能に与える影響(気候変動生態系機能)に関する研究」と、「多様性→生態系機能に関する研究」は、それぞれ独立して発展してきた。私は、これら2つの研究分野を融合させることで、自然条件下においても「生物多様性は気候変動が生態系機能に与える影響を緩和し得る」ことを、理論的・経験的に実証した。


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