| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(口頭発表) A01-08  (Oral presentation)

衛星観測クロロフィル蛍光とPRIを用いたモンゴルでの草原・森林の乾燥応答の識別
Observation of the Drought Responses of Grassland and Forest using Satellite-based SIF and PRI in the Mongolian Plateau

*清野友規(国立環境研究所), 野田響(国立環境研究所), 熊谷朝臣(東京大学), 押尾晴樹(国立環境研究所), 吉田幸生(国立環境研究所), 松永恒雄(国立環境研究所), 彦坂幸毅(東北大学)
*Tomoki KIYONO(NIES), Hibiki M. NODA(NIES), Tomo'omi KUMAGAI(The University of Tokyo), Haruki OSHIO(NIES), Yukio YOSHIDA(NIES), Tsuneo MATSUNAGA(NIES), Kouki HIKOSAKA(Tohoku University)

大気の乾燥と土壌の乾燥は,植生の水利用のあり方を変え,陸域水循環・炭素循環に影響する.この2タイプの乾燥それぞれの影響を広域スケールで識別することは容易でないが,両者はそれぞれ別種の自然特性(パラメータ)に関連し,また植生タイプによって乾燥への応答の仕方は変わるため,正確な分離評価が求められる.本研究では,人工衛星によって観測されたクロロフィル蛍光SIFと光化学反射指数PRIが,乾燥に対する植生応答をどの程度識別しうるかを検討した.対象地・植生は,1990年代後半から急速に高温乾燥化が進行した,モンゴル平原のステップ・タイガである.評価には2009–2018年においてGOSAT衛星によって観測されたSIFと,Aqua衛星(MODISセンサ)によるPRIを用いた.
 10年分のGOSAT SIFとMODIS PRIのデータは,両者共に,タイガは大気飽差の変化に敏感であるが表層土壌水分の変化には鈍感であり,ステップはその逆であることを示していた.MODIS PRIは水分条件と季節的な気温変化に連動して妥当な変化をしていたが,更に,センサ視野角内におけるキャノピーの日陰割合にも強い感度を持っていた;この結果はキサントフィルサイクル由来の反射率変化によるものと解釈しうる.タイガにおいては,葉面積指数LAIは年ごとの違いが少なく安定的な季節サイクルを繰り返していたが,SIFでは顕著な年々変動が確認され,また夏季における吸収放射量当たりのSIFの値(SIF yield = SIF / APAR)は飽差と相関していた.一方ステップでは,年間降水量の変化に応じてLAIが大幅に変わっていた.ステップのSIFシグナルは微弱であるためGOSATによる推定値には大きな誤差が含まれていたが,10年間の平均的な特性を評価すると,特定の土壌含水率(~ 15.4%vol)におけるSIF yieldの急激な低下が確認された.この結果は,衛星SIFによって萎れ点の広域的検出が実現できる可能性を示唆するものである.


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