| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(口頭発表) A01-12 (Oral presentation)
マメ科植物は、大気中の窒素を窒素酸化物に変換する根粒菌を含む根粒と共生する。植物は根粒の器官分化や窒素固定に必要な光合成産物を供給するため、過剰な根粒形成は植物の生育を妨げる。そこでマメ科植物には新たな根粒形成を抑制する機構がある。
本研究では宿主植物の機能を最大化する最適な根粒数を求め、その結果をもとに制御の経路について考察する。2つのモデルを検討した。
【定常植物モデル】 生成された光合成産物からコストと損失を差し引いたものが繁殖に使われ、これを最大にするように植物が根粒数を選ぶとする。[1] 葉での光が土壌中の硝酸塩濃度に比べて大きい時は、根粒をつけることが有利になる。そのとき葉の窒素含有量は光の強さに比例し、土壌中の硝酸塩濃度と無関係になる。[2]葉での光が土壌中の硝酸塩濃度に比べて小さいときには、最適な植物には根粒をつけず、葉の窒素含有量は土壌中の硝酸塩濃度に比例する。根粒をつけるマメ科植物は、日陰で暗い環境ではなく、よりひらけた環境で優位に生育する傾向が説明できる。
【成長植物モデル】 植物は栄養成長をしており、光合成産物のうち維持コストを除くすべてを、植物の成長に用いるとする。植物は指数関数的に成長し、植物の成長率が最大となるように根粒をつけるとする。環境依存性は、定性的には定常植物モデルと似ている。光が強く土壌窒素が多いときには根粒をつけ、光が弱く土壌窒素が多いとつけない。成長は、土壌窒素の多く葉での光がつよいとき速い。
根粒数や葉あたりの窒素量の環境因子(光や土壌窒素)への依存性は複雑である。それは、成長が速い植物では葉の窒素が少なく、根粒が少なくなることから説明でき、「希釈効果」(Hikosaka & Osone)によるものといえる。
根粒形成では、葉で生成されるシグナルが地下にある根粒の形成を調節する(長距離制御)。これは、根粒を持つ有利さが光の強度に依存するために、葉で決定する必要があるためと理解できる。