| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(口頭発表) A02-02 (Oral presentation)
成熟林はギャップとギャップでない場所がモザイク状に混ざる、ギャップモザイク構造を持つ 。ギャップとギャップでない場所では、林床低木が得られる光の量は大きく異なる。一般的に植物は、光環境に応じて、形質を変化させることで順応しており、その順応できる範囲は樹種ごとに決まっている。そのため、成熟林のギャップモザイク構造に応じて、場所によって林床低木の種構成が異なり、その生産量も異なると考えられる。しかし、これらを実証した研究はほとんどない。本研究では成熟林にて林冠の葉群量と林床低木の種構成、生産量の関係を調べた。調査地は長野県に位置するブナ成熟林とした。調査地内の永久調査区(1 ha)において、林冠の葉面積指数(林冠LAI)を多点計測(81地点)した。次に、林冠LAIの各計測点を中心に半径10 mの小調査区を設け、小調査区内の林床低木群集について、多様度指数や過去5年間の地上木部純一次生産量(ANPPW)を計算した。また、冗長性分析(RDA)を用いて林冠LAIと林床低木の群集構造の関係を調べた。林冠LAIは、0.06から3.95の間で変動し、その変動係数は48%であった。林床低木の多様度指数と林冠LAIの間に有意な相関関係は見られなかったが、RDAの結果から閉鎖された林冠下とギャップでは林床低木の種構成が異なることがわかった。よって、林冠LAIの値が変わっても林床低木の多様性そのものは変化しないが、種組成は変化していることがわかった。 小調査区あたりのANPPWは、変動係数にして63%変動していた。また、林冠LAIと小調査区あたりの林床低木のANPPWは有意な負の相関関係があった。これより、ギャップで林床低木の生産量が高くなっていることがわかった。本研究によって、成熟林のギャップモザイク構造に応じて、林床低木の種構成や生産量が場所によって異なっていることが実証された。