| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(口頭発表) A02-03 (Oral presentation)
これまでの花粉分析による植生史学的な研究成果(Miyoshi et al. 1999; Takahara et al. 2000; Hayashi et al. 2009, 2010a, bなど)によると,10万年周期の氷期・間氷期変動がさらに顕著になる過去50万年間(Lisiecki & Raymo 2005)についてみると,基本的には非常に寒冷で乾燥した氷期(最終氷期最盛期など)にはマツ科針葉樹が優占し,それ以外の氷期にはブナやコナラ亜属の落葉広葉樹やスギを中心とした温帯性針葉樹が優勢であった。間氷期には,スギに加え,西日本では照葉樹林を形成する常緑広葉樹のアカガシ亜属(カシ類)花粉の出現率が,約12万年前のMIS5(酸素同位体ステージ5)と約40万年前のMIS11では,高い値を示し,特にMIS11では,現在の間氷期である完新世と同じくらい高い。しかし,同様に温暖な間氷期であるMIS7(約22万年前)やMIS9(約32万年前)では,アカガシ亜属の出現率は非常に低く,落葉広葉樹やスギなどの温帯性針葉樹が優勢であった。このように,氷期・間氷期変動の間,極寒冷な時期を除いて,スギの優勢な期間が長く,日本列島はスギの優勢な植生の支配する地域であった。完新世においても,人間活動が活発になる約1,000年前 までは,特に日本海側地域では,低標高地から山地までスギの優勢な植生が存在していた。現在の日本列島の植生図では,西日本から関東は暖温帯常緑広葉樹林(照葉樹林),東北以北は冷温帯落葉広葉樹林として位置付けられている。しかし,上記のように,第四紀の気候変動のなかで,寒冷な氷期にも温暖な間氷期にも長期間に渡ってスギの優勢な植生が形成されていた。このような植生史の研究成果に基づき,日本列島の暖温帯から冷温帯にかけての本州の日本海側地域には,スギの優勢な植生帯を設ける検討が必要である。