| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(口頭発表) A02-07 (Oral presentation)
人為攪乱により維持されてきた草原が土地利用の変化により近年世界中で急速に減少し、多くの草原性生物が絶滅の危機に瀕している。そのため生物多様性が高い草原を特定して、優先的に保全する必要がある。先行研究から高標高域のスキー場草原では、継続期間が長い古い草原に希少植物が多いことが分かっている。そこで、継続期間の長い草原としてため池の堰堤に着目し、ため池の植物多様性と環境要因を調べ、生物多様性保全におけるため池の重要性を示すことを目的とする。
長野県上田市塩田平周辺で、比較的大規模な堰堤を有する80~400年続くため池10か所、造成後10~40年ほどの草原を対照区とした6か所で、それぞれ1×20 m内の区画に出現する植物種を5~10月に3回調べるとともに、調査区周辺の約400~6000㎡で出現する植物種を記録した。また区画内の植生高やpHなどの環境要因を測定し、多様性へ与える影響があるかどうかも調べた。解析は種数と環境要因の比較と、種組成や特性ごとに分けた組成の比較などをした。
調査区では、対照区の平均83種に対してため池では130種が見つかっており、周辺調査を含めると、ため池では環境省や各都道府県が指定する絶滅危惧植物が計122種見つかった。また造成後年数(継続期間)が長いため池ほど希少種が多く生息していた(単回帰、p < 0.05)。環境要因との関係は面積が増えると外来種数が増え、植生高が低いと希少種数が多くなる傾向があった(単回帰、ともにp < 0.05)。種組成や生活史組成はため池と対照区で大きく異なり、指標種で見たタイプごとの生活史や在来種・外来種の種数比率もため池と対照区では大きく異なっていた(PERMANOVA、カイ二乗検定、ともにp < 0.05)。
以上より、ため池、特に歴史の長いため池には希少性と保全優先度が高い植物群集が維持されていることが明らかになった。現在、全国のため池で進む耐震工事でその貴重な植生が危ぶまれており、植生に配慮した工事が望まれる。