| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(口頭発表) A03-01 (Oral presentation)
水田の耕作放棄は日本に限らず稲作文化圏における大きな問題となっている。耕作放棄の生じる原因としては高齢化問題や就労・雇用問題、米の輸出入に関する問題など様々な問題がある。また、耕作放棄によって、雑草が繁茂したり畔が壊れることで隣の水田に悪い影響が生じたり、水田生態系や生物多様性への影響が生じたり、水田という景観の崩壊問題、水田の治水機能の低下に伴う防災や水利用に関する諸問題など様々な問題が生じている。
地域全体の水田は保つためには、自分の水田を耕すだけではなく、地域で農業用水路の掃除や整備、農道の補修や整備などの公共財を維持するための共同作業が必要となる。この共同作業は労力もかかるが、他人が維持活動を行うことで、自分は公共財への投資をしなくても利益を得るという構造になっており、「共有地の悲劇」が生じやすい。
本研究では、個人の利益を追求する行動と公共財のための共同作業のトレードオフを考慮した進化ゲーム理論解析を行った。各プレイヤーは碁盤のような格子モデル上に並んでいて水田を耕し、耕すほど米の収量が上がって収入も増えるが、労力もかかるとする。他のプレイヤーが耕作放棄をするほど自分に悪い影響があり収益が減るが、耕作を行なった場合は水をめぐる競争により収量が減ると仮定した。公共財の維持のためにコストは被るが、公共財が整備されるほど収穫量も増えるとした。そして空間スケールの影響も考慮した。
まずは、地域全体の耕作放棄から悪影響を受けたり、地域全体で公共財の維持活動を行う場合は数理モデルによって解析し、共有地の悲劇が生じるために耕作放棄が生じることを示した。
次に、隣接の田が耕作放棄すると悪影響が出るという前提においてエージェントベースシミュレーションによって解析を行った。すると、地域全体ではなく隣接プレイヤーと公共財の維持活動を行うことで、耕作放棄が防ぐことができることを示した。