| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(口頭発表) A03-03  (Oral presentation)

スギは日本の潜在自然植生の主要種の一つではないのだろうか
Cryptomeria japonica as one of the major species of potential natural vegetation in Japan

*小椋純一(京都精華大学)
*Jun-ichi OGURA(Kyoto Seika Univ.)

 スギは現在では植林されたものを中心に日本国内に広く見ることができるが,青森県から屋久島まで,冷温帯域から暖温帯域にかけての日本列島にその天然林も少なくない※1。また,花粉分析や埋没林についての多くの研究から,スギは最終氷期よりもはるか前から日本列島に広く存在し,最終氷期最寒冷期よりも少し前から大きく減少する時期も長く続くが,縄文後期から弥生時代頃にかけて大きく増えた地域が多かったことなどが明らかになっている。その後,人の利用により減少もする一方,人が植栽することにより大きく増えてきた樹種である。そのように,スギはかつて日本の主要な樹種であった時代がきわめて長かったが,人為的に増えている面が大きいことや天然更新が容易でない面があり,主に社寺林を対象とした調査では潜在自然植生の主要樹種とはされてこなかった。
 潜在自然植生を主に社寺林の調査から捉えようとした理由として,社寺林は人手が加えられることが少なく,そこには古くからの植生種が残されていると考えられたことがある。しかし,ここ十数年ほどの筆者らの研究※2から,そうした前提の考えは間違っており,潜在自然植生を主に社寺林の調査から捉えようとしたことには問題があると考えられる。一方,スギの更新については,京都周辺の山地や奈良の春日山などを少し調べてみるだけでも,スギがさまざまな形で自然に更新しているところを多く見つけることができる。これまでのスギの天然更新に関する数多くの研究結果とともに,そうした場所におけるスギの更新状況の観察,またスギは長寿で陰樹性も持ち合わせた樹種であることなどを総合的に考えると,スギは日本の潜在自然植生の主要樹種の一つと考えるのが適切であるように思われる。

  ※1 林弥栄『日本産針葉樹の分類と分布』農林出版 1960
  ※2 小椋純一「鎮守の森の歴史」『森と草原の歴史』古今書院,p256-337,2012 など


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