| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(口頭発表) A03-04 (Oral presentation)
鹿児島県 口永良部島の新岳で,2015年に大規模な噴火が発生した.火口から半径数キロの範囲の土壌は,噴火にともなう火砕流により一掃され,火山灰(数cm)の影響も受けた.さらに,その後の降雨で火山灰と直径1 mを超える巨礫をふくむ大量の火山噴出物が,火山泥流というかたちで噴火跡地に堆積した.火山泥流が堆積した地点では,攪乱直後,かつ噴火跡地の周囲に被害を免れた緑地が残存しているにもかかわらず,先駆植物がほとんど生育せず,通常,噴火から数十年の時間を経過した後に侵入する傾向にあるクロマツ(落葉針葉樹)の実生のみが広範囲で確認された.この現象は,既存の一次遷移系列の概念とは大きなギャップがある.攪乱跡地における植物の侵入プロセスやメカニズムを解明するにあたり,多くの研究者がその鍵として「菌根菌」の存在を挙げる.植物-菌根菌の共生関係のなかでも,菌根菌と特に強い関係性を持つクロマツは,外生菌根菌グループの菌根性樹種であることが分かっている.外生菌根菌と共生することで環境ストレスに対する耐性を高め,貧栄養土壌下にも適応できると言われている.したがって,本来,植物の生育が困難な環境下では,特定の外生菌根菌の存在に大きく依存した植生が形成される可能性が示唆される.このことから,本島で見られる噴火直後における特異な植生の成立パターンの解明には,植物-菌根菌間の共生関係の理解が欠かせない.そこで本研究では,口永良部島の噴火直後に,先駆植物の成立に先立ちクロマツの実生が優占して定着したメカニズムの理解にむけ,異なる火山噴出物(火山泥流,火山灰)におけるクロマツを含む島内の植物の生育実態および各種の菌根菌との共生関係について,室内試験で検討した.