| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(口頭発表) A03-05  (Oral presentation)

農耕地および路傍における植生と適応様式の比較 【B】
Comparisons of vegetation and adaptation between agricultural and roadside habitats 【B】

*下野嘉子, 半下石侑, 池田茉史, 冨永達(京都大学)
*Yoshiko SHIMONO, Yu HANGAISHI, Mafumi IKEDA, Tohru TOMINAGA(Kyoto Univ.)

 路傍には一般に保水性の低い砂質土壌が薄く堆積し、乾燥などの物理的ストレスが強いと考えられるが、春に開花する冬生一年草の中には、路傍を主な生育地とし、農耕地にはほとんど出現しない草種が存在する。本研究では、農耕地と路傍の植物種組成を比較し、各生育地の優占種を明らかにするとともに、相互播種実験を通して、各生育地における適応的な形質について考察した。
 滋賀県の農耕地と路傍各25地点において2018年の春と秋に植生調査を行った。これをもとに各生育地に優占する冬生一年草6種を選び、2019年春に種子を採集し、インキュベータを用いた発芽実験と野外における播種実験に供試した。発芽実験では、乾燥および温湿処理を施した種子について5変温条件下での発芽率を算出し、休眠程度と発芽適温を評価した。野外における播種実験では、農耕地と路傍それぞれのpHと土性を模した試験土壌に播種し、各種の出芽、死亡、開花個体数を1週間ごとに調査した。
 農耕地種は休眠が浅く播種後すぐに出芽する種と、休眠が深く高温による発芽抑制があり気温が低下する秋まで出芽しない種にわかれた。休眠の浅い農耕地種は出芽後速やかに開花に至り、農耕地条件では種子を生産することができたが、路傍条件では開花に至らず死亡した。一方、路傍種は路傍条件では休眠程度に関わらず秋まで出芽せず、農耕地条件では休眠の浅い種は夏に出芽し高い死亡率を示した。農耕地種は1種をのぞいて、路傍種は全種において、それぞれの生育地と同じ条件下での生存率が高かった。このことから、各種における生育環境への適応が示唆された。水分条件の良い農耕地条件で路傍種の生存率が低下した理由として、不適切な発芽時期や実生の耐湿性の低さなどが関わっていると考えられる。


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