| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(口頭発表) B01-01 (Oral presentation)
高い生物多様性を誇るサンゴ礁生態は、近年の気候変動により、熱帯域では、高水温ストレスによる壊滅の一途をたどっている。このような中、北限域に位置する日本では、サンゴの複数種が北上・分布拡大しており、避難所として機能することが期待される。しかし、北上して新たにできた集団は、絶滅と加入を繰り返す不安定な集団である可能性もある。よって、効果的に保全するためには環境変化に対する脆弱性の指標である遺伝的多様性を調べることは重要である。また、サンゴの北上や再生産は、幼生分散により起きるため、サンゴ集団間の遺伝子流動を調べる必要がある。さらに、サンゴの共生褐虫藻の種類はサンゴの生存に深く関わるため海域ごとの違いを把握することが重要である。そこで本研究では、温帯優占種(エンタクミドリイシAcropora cf. glaucaおよびミドリイシAcropora solitaryensis)のMIG-seq法を用いた集団ゲノム解析を行った。さらに、共生褐虫藻の組成を調べるために核のITS2領域を解析するとともに、MIG-seq法による核ゲノムを用いた褐虫藻遺伝子型組成の違いも明らかにした。結果として、今回調べた全海域で遺伝的多様性は両種とも同程度となり、最北限域で特に環境変化に対する遺伝的多様性の低下による脆弱性はないと考えられた。また二種のサンゴの遺伝分化係数は、ミドリイシが0.023(P<0.001)およびエンタクミドリイシが0.018(P<0.001)となり、全集団では分化が見られるものの、集団間の遺伝分化はそれほど大きくなく、遺伝子流動が比較的頻繁におきていると考えられた。2種のサンゴはほぼ同時的に北上していたことから、地点間の幼生分散の程度は2種の間でほぼ同程度であると考えられた。さらに、褐虫藻遺伝子型を調べた結果により、最北限域の館山と対馬の2集団のみにおいて褐虫藻の組成が他の海域と共通して異なっていたことから、北限域の厳しい環境に適応するために特異的な褐虫藻をサンゴが選択的に取り込み適応している可能性が考えられた。