| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(口頭発表) B01-04  (Oral presentation)

環境変動に対する群集動態駆動ルールの反応性:魚類群集観測データの非線形時系列解析
Nonlinear time-series analysis of structural instability against changing environments in a property of whole fish community

*大友優里(東北大学), 益田玲爾(京都大学), 長田穣(水産機構水資研), 川津一隆(東北大学), 近藤倫生(東北大学)
*Yuri OTOMO(Tohoku Univ.), Reiji MASUDA(Kyoto Univ.), Yutaka OSADA(FRA), Kazutaka KAWATSU(Tohoku Univ.), Michio KONDOH(Tohoku Univ.)

自然生態系において、生物個体群は様々な環境の変化に応答する。共存する種は同一の環境変動を経験するため、環境変動への応答になんらかの共通性やパターンが見られることが期待される。しかし、個体群密度変動は個々の種の生活史や形質によって影響されるため、種間で大きく異なっている。そのため、自然環境で起こる様々な環境変化の影響を受けて個体群密度動態がどのように変化したかを種間で比較したり、類似した反応性を持つもので分類したりすることは容易ではない。本研究では、生物の個体数動態を駆動する「ルール」の変化のタイミングに着目して生物を分類する手法を提案する。この手法では、生物の個体数動態を力学系から生み出されたものだと捉え、その力学系に属する変数を軸としてとった空間(状態空間)内で個体数動態が描く軌道(アトラクタ)の形状が変化するタイミングに着目する。アトラクタの形状変化が生じたタイミングは、長期観測データに対して非線形時系列予測を適用して検出した。具体的には、個体群密度の観測期間を短い区間に区切った上で、それぞれの区間に対して非線形時系列解析を適用してアトラクタを再構成し、これを用いて別の区間のデータを予測した。この時、2つの区間の間でアトラクタの形状が似ていれば予測精度は高くなり、アトラクタの形状が全く違っていれば予測精度は低くなることが期待される。これを全ての小区間の組み合わせで行うことでアトラクタの変化がいつ起こったのかが推定されるのである。この手法を発電所からの温排水による水温変化の影響を受けた魚類群集に適用したところ、対象となった17種は大きく2つの種グループに分類された。この2つの種グループのうち一方はアトラクタの変化と水温変化の間に比較的強い関係性がある種が多く含まれており、調査した魚類群集では温度変化が個体数動態の駆動ルールの変化の主要因であったことを示唆している。


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