| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(口頭発表) B01-08  (Oral presentation)

北海道に生息するハリガネムシ類の感染経路における終宿主の種多様性効果の検証
A test of the effects of species diversity of definitive hosts on the infection dynamics of horsehair worms in Hokkaido, Japan.

*友渕直人(神戸大学), 内海俊介(北海道大学), 太田民久(富山大学), 岸田治(北海道大学), 舘野隆之輔(京都大学), 丹羽滋(自然環境研究センター), 長谷川功(水産研究・教育機構), 瀧本岳(東京大学), 森健介(神戸大学), 佐藤拓哉(神戸大学)
*Naoto TOMOBUCHI(Kobe Univ.), Shunsuke UTSUMI(Hokkaido Univ.), Tamihisa OHTA(Toyama Univ.), Osamu KISHIDA(Hokkaido Univ.), Ryunosuke TATENO(Kyoto Univ.), Shigeru NIWA(JAPAN WILDLIFE RESEARCH CENTER), Koh HASEGAWA(Japan Fish. Res. and Edu. Agy.), Gaku TAKIMOTO(Tokyo Univ.), Kensuke MORI(Kobe Univ.), Takuya SATO(Kobe Univ.)

 生物群集による寄生者の制御メカニズムに対する関心が高まっている。例えば、種の多様性が寄生者の感染を抑制する効果(希釈効果)や増幅する効果(増幅効果)に関する研究が盛んに行われている。しかしながら先行研究は、比較的単純な生活史を有する寄生者を対象としている。実際には、多くの寄生者は中間宿主と終宿主を利用する複雑な生活史を有する。それらの寄生者の感染動態は、中間宿主と終宿主それぞれで働く多様性効果の相互作用によって制御されている可能性がある。しかし、そのメカニズムの実証と理論化はなされていない。
 北海道に生息するハリガネムシ類では、中間宿主である水生昆虫の羽化フェノロジーの多様性が、終宿主である地表徘徊性甲虫類への感染機会を長期化することが明らかになってきている。しかし、中間宿主から終宿主への感染機会は、終宿主の出現フェノロジーが多様であれば増幅されるが、集中すればむしろ希釈されうる。
 このことを検証するために、北海道において地理的に離れた4地点に計7つの調査サイトを設け、2014-2017年に捕獲した10000個体を超える地表徘徊性甲虫のハリガネムシ感染状況を調べた。その結果、3科34属91種の地表徘徊性甲虫が確認され、そのうち2科7属13種で感染が認められた。各サイトでは、感染率が1.8-14.1%とばらつくものの、複数年の感染が認められる種が複数種存在していた。感染種は、そのほとんどが春繁殖を行う種であり、種間で類似した出現フェノロジーを有していた。それぞれの地点において感染種間で出現フェノロジーの同調性を調べたところ、高標高の地域ほどフェノロジーの同調性が高かった。これらの結果は、ハリガネムシ類の感染動態において、中間宿主の種多様性による感染機会の時間的増幅効果と、終宿主種間の出現フェノロジーの高い同調性による時間的希釈効果が、正味の効果としては感染機会の時間的希釈効果をもたらす地域が多いことを強く示唆する。


日本生態学会