| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(口頭発表) B02-02 (Oral presentation)
自由生活生物の多様性が高く生産的な生態系では、寄生虫などの共生生物の多様性も高いことが近年の研究から明らかになってきた。これは寄生虫の多様性を調べれば生態系全体の健全度が分かることを示唆している。一方、個体群レベルで寄生虫と宿主個体群の生産性・健全性に関する関係はほぼ検討されていない。絶滅危惧種ニホンザリガニCambaroides japonicus(以下、ザリガニ)には同一個体上に複数種のヒルミミズ類(環形動物門:ヒル綱)が共生していることが知られている。ヒルミミズ類は北海道から9種が記載されているが、宿主個体群ごとに種構成が異なり、そのパタンは全く明らかになっていない。本研究ではこの系を対象に、健康な宿主個体群ほど寄生虫の種多様性も高いという仮説を検証した。
北海道東部・北部の計13地点でザリガニの個体群健康度の評価とヒルミミズ類の採取を行った。ヒルミミズはザリガニ個体ごとに分離し、種ごと個体数を計測した。ザリガニ個体群の健康度の指標として相対アバンダンス(単位努力量当たりの捕獲数:CPUE))を、ヒルミミズの多様性の評価には調査地点で確認された全種数を用いた。
合計102個体のザリガニを調べた結果、1つの宿主個体群内に最大5種、1個体あたり最大282個体のヒルミミズが付着していた。道北地域の個体群でのみ宿主個体群の相対アバンダンスとヒルミミズの多様性の間に弱い正の相関がみられた(r=0.69、R2=0.72)。一方道東地域では両者の間に相関関係はなく、ザリガニ個体群の健康度にかかわらず道北地域に比べ明らかにヒルミミズの種多様性が低かった。これは道東地域のザリガニ個体群の進化的歴史が浅く、ボトルネック後に急速拡大した遺伝解析の結果と合致する。
本研究から寄生虫が宿主集団の健康度の指標となり得ることが示唆できたが、結論付けるにはより詳細な現地調査が必要である。特に進化的歴史を無視できる比較的狭い地域で多数の個体群を比較するのが望ましい。