| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(口頭発表) B02-03 (Oral presentation)
近年、ニホンジカCervus nippon(以下 シカ)の分布拡大に伴う農林業被害、自然植生への被害は、日本全国において問題になっている。地域集団の遺伝的多様性や集団構造を把握することは、適切かつ効率的なシカの管理計画を策定する上で重要となる。本研究では、シカの分布最前域の一つである東北地方北部、青森県・秋田県・岩手県(以下 分布拡大地域)で分布を拡大している集団について、mtDNAの多型解析、およびnDNAのMIG-seq(Multiplexed ISSR Genotyping by sequencing)による一塩基多型( Single Nucleotide Polymorphisms)解析を用いて、遺伝的多様性、集団構造の解析、種内系統の比較による起源集団の推定を行った。
解析の結果、分布拡大地域集団は、過去に集団が縮小したことによる遺伝的浮動の影響を受け、日本各地の地域集団と比較して遺伝的多様性が低かった。また、分布拡大地域から主として検出されたmtDNAハプロタイプは、先行研究において岩手県五葉山周辺地域で継続的に生息していた集団のハプロタイプと一致した。さらにnDNAデータを用いた解析では、分布拡大地域集団は遺伝的に1つの集団であることが示唆された。以上より、分布拡大地域集団は、分布拡大以前から五葉山周辺地域に生息していたシカ集団を起源とする、遺伝的に独立した1つの保護管理単位(Management unit)と結論付けられる。このような集団には、関連自治体の連携による広域管理が有効となる。管理の際には、遺伝的モニタリングを定期的に行うことで、拡大の方向やルートを推定し、より効率的な個体数管理や、予防的な対策が可能になると考えられる。また、シカによる被害程度は周囲の景観にも影響を受けるため、地域特有の景観を考慮した被害防除や生息地管理の実施も重要にとなる。