| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(口頭発表) B02-07  (Oral presentation)

異性間および同性間の性的な種間相互作用:シマドジョウ属2種における事例
Male-female and male-male interspecific sexual interactions: a case study in two spined loaches

*森井清仁, 網野可菜, 高倉耕一(滋賀県立大学)
*Kiyohito MORII, Kana AMINO, Koh-Ichi TAKAKURA(The Univ. of Shiga Pref.)

 ともに絶滅危惧種であるコイ目ドジョウ科シマドジョウ属の淡水魚, オオガタスジシマドジョウ(以下, オオガタ)とビワコガタスジシマドジョウ(コガタ)は, もともと繁殖場所を分割していたが, 人為的環境改変によって繁殖場所を二次的に共有したために繁殖干渉が生じ, コガタが衰退したと考えられている. この仮説が証明されれば, 新たな人為的環境改変の影響が明らかになる上に, 絶滅危惧種の衰退メカニズムを説明する新たな仮説となる. 本研究では両種間の性的相互作用を裏付けるために, 分子生物学的な手法により雑種の有無について調べた. また, 野外観察により両種間の繁殖行動を調べた.
 核遺伝子を標的としたオオガタとコガタのそれぞれに特異的なプライマー対を用いて, 両種の稚魚の雑種を探索した. 実験には母系がコガタであることをmtDNAマーカーで予め確認した54個体の稚魚を用いた. これらの稚魚は, 両種が同所的に繁殖する滋賀県高島市のビオトープで2015年から2019年に採集された. 種間の繁殖行動の観察は, 2020年5月から6月の夜間に前述のビオトープで行い, 種および性の組み合わせと観察された行動を記録した.
 雑種稚魚の探索では, 2015年の2個体と2019年の1個体がコガタのメスとオオガタのオスの雑種であることが示された. これらの雑種が見つかったことで種間の性的相互作用の存在を裏付けることができた. 過去の調査では, 多くのコガタのメスが産卵をせず繁殖期を終了していた. そのため, 両種間の交雑の頻度は小さく, 繁殖干渉の主要メカニズムは交雑以前の求愛行動であると予想されていた. 本研究の結果はこの予想と一致した. 野外観察では, コガタのオスがオオガタのオスとメスを追いかける行動がそれぞれ3回と1回観察された. 調査地での両種の頻度はオオガタに大きく偏っているため, コガタのオスが他種を追いかける行動はコガタのペア形成を難しくするかもしれない.


日本生態学会