| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(口頭発表) B03-01  (Oral presentation)

雄産出の季節のゲーム:海洋生物とチョウとの大きな違い
Seasonality in producing male larvae: a game model for parasitic barnacles

*山口幸(東京女子大学), 巌佐庸(関西学院大学)
*Sachi YAMAGUCHI(Tokyo Woman's Christian Univ.), Yoh IWASA(Kwansei Gakuin Univ.)

多くの海洋生物はプランクトン幼生を作り、顕著な季節性を示すものが多い。そこで、雄幼生を生産する季節性を、産卵雌(母親)にとってのゲームとして考えるモデルを解析した。雌雄の季節性を扱うゲームとしては、チョウの羽化季節のモデルがよく知られ、実証研究もなされてきた。しかし、海洋生物の雄生産の季節性に関しては、チョウの場合とは大きく異なる予測がなされることを発見したので報告する。

例として、カニやヤドカリを宿主とする寄生者であるフクロムシを考えてみる。フクロムシの中には、幼生の段階で雌雄にわかれ、雌が宿主に感染し宿主体内で成長した後、雌は雄幼生をフェロモンで呼び寄せるようになり2つのポケットに雄幼生を受け入れる、という種が多い。雌がもっているポケットが埋まると後から来た雄幼生は入ることができない。プランクトンは摂食せず寿命も短いため、母親が産んだ息子の繁殖成功を最大にするように、自らの産卵のタイミングを選ぶゲームをおこなっていると仮定した。

チョウの羽化日を選ぶゲームでは、毎日朝に羽化した雌は、すべてその日のうちに雄に見つかり交尾されると仮定する。ESSにおける雄の羽化日は、雌の毎日の羽化数がなだらかな山形の曲線を描くときに、雄は雌の羽化のピークより早く羽化するが、やはりなだらかな連続的な分布になる。
 ところが雄がプランクトンであると、受精可能な雌を発見する能力は、視覚と飛翔力に優れる昼行性の昆虫(チョウの成虫)に比べて劣る。フクロムシの幼生では、雄は受け入れ可能になった雌をすぐに発見することはできず、未交尾の雌が数日以上に渡って残ることになる。その結果、ESSにおいて、雄の羽化日が比較的少数のピークに集中するという解が出現する。

詳細な繁殖季節性を調べることは、海洋生物ではなされていないが、実験的な検証の可能性について、議論したい。


日本生態学会