| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(口頭発表) B03-05  (Oral presentation)

里山の細流に生息するアイシマトビケラ( Diplectrona aiensis)の幼虫形態と生活史
Larval morphology and life cycle of a caddisfly, Diplectrona aiensis, inhabit a small flow in Satoyama

*東田昌悟(近畿大学), 河内香織(近畿大学), 野崎隆夫(神奈川県二宮町)
*Shogo HIGASHIDA(KINDAI Univ.), Kaori KOCHI(KINDAI Univ.), Takao NOZAKI(Kanagawa Prefecture)

奈良県にある丘陵地の里山小渓流においてミヤマシマトビケラ属アイシマトビケラDiplectrona aiensisの幼虫が発見された。日本産ミヤマシマトビケラ属の分類学的研究は成虫・幼虫ともに遅れており、幼虫はキブネミヤマシマトビケラおよび成虫未詳のDCミヤマシマトビケラが知られるのみであったが、本種は頭部前縁の突起が無いことや鱗状の刺毛を持たないことなどからあきらかに既知幼虫と異なっていた。日本産のミヤマシマトビケラ属については生態学的にも研究が遅れていて、特に記録も散発的なアイシマトビケラについては生息環境や生活史に関する情報がほとんどないので、本種の形態について報告するとともに、その生態および生活史を解明することを目的として調査を行った。2020年6月から2021年2月にかけて、ひと月に一度奈良市内の丘陵地を流れる細流で定量採集による調査地の生物群集調査と見つけ取りによるアイシマトビケラの採取を行った。定量調査のサンプルは持ち帰った後70パーセントエタノールで保存し、顕微鏡を用いて可能な限り下位分類まで同定した。アイシマトビケラは採取後、一部は生きたまま持ち帰って飼育し、残りは70パーセントエタノールで保存後頭幅を計測した。飼育する個体はクリーンカップに調査地で採取した水、礫、落葉片と河川懸濁物を共に入れ、採取時の調査地の水温に合わせたインキュベーター内でできる限り羽化するまで飼育した。飼育実験においては、流れのある箇所での営巣行動と摂餌行動が確認できた。自ら張った糸に流れてきた落葉片などを引っかけ、そのまま巣材として用いていたため巣材のこだわりは弱い印象を受けた。摂餌は捕獲網にかかった懸濁物を積極的に摂食していた。胃内容物を見ても有機物残滓が占めていたためデトリタス食であると推測できた。採取した個体の頭幅と採取日を散布図に表すと8ヶ月の間大きな個体から小さな個体まで幅広く出現していた。


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