| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(口頭発表) C01-01 (Oral presentation)
オスのセミは,主に同種のメスを引きつけるため,夏の日中に木の幹で鳴き声を発する.特に,セミは他の生物と比べて視力が悪く,鳴き声がメス獲得のための重要な役割を果たすと考えられている.また,セミの鳴き声はパートを分け,旋律をつけるという複雑な特徴を持ち,種によっては複数の異なる鳴き声を発する.さらに,繁殖地には複数のオスが存在しており,他のオスとの相互作用によってもその鳴き声を変化させる.そのため,特にセミの鳴き交わしは複雑であり,鳴き交わし方や鳴き声の機能について未解明の要素が存在する.
本研究では,ツクツクボウシ(Meimuna opalifera)と呼ばれる東アジアに生息するセミに着目した.その理由は,他種のセミと比較してパートを分け,旋律をつけるという鳴き声の特徴変化が顕著なためである.また,オス同士で鳴き交わす際に音響特性が異なる,主鳴音と合の手と呼ばれる2種類の鳴き声を発することが知られている.主鳴音は,オスがメスを引きつけるための鳴き声で,合の手は,主鳴音に対してのみ発する鳴き声である.合の手の機能および2種類の鳴き声を使い分ける基準は明らかにされていない.
セミの鳴き交わし方と機能について調べるため,マイクロホンアレーによる音響計測を行い,録音したデータを解析した.まず,野外で捕獲したツクツクボウシのオス2匹を室内に配置し,鳴き交わしを録音した.次に,録音データから各個体の鳴き声を発した時刻と鳴き声の種類をプログラムで自動検出し,2匹の鳴く時刻について解析した.解析の結果,2匹が鳴き交わす際,一方の主鳴音に対して他方が合の手を一定の時間差で発することを確認した.最後に,鳴き交わしにおいて合の手が持つ機能を数値シミュレーションと実験データの比較により解析した.