| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(口頭発表) C01-04 (Oral presentation)
被食者の中には、接近してくる捕食者から逃避する際に目立つ行動をするものがいる。ショウリョウバッタはそのような被食者の1種であり、人が接近すると多くのオスがキチキチと目立つ音を発しながら飛翔によって逃避する。このキチキチ音は捕食者を驚かせる機能や逃避の途中で発音を止めることで被食者の居場所を見失わせる機能を持ち、ショウリョウバッタの生存率を高めると考えられている。しかし、これらの仮説は検証されていない。仮説の検証には実験的に発音の有無を操作して生存率を比較することが有効であるが、ショウリョウバッタを含むバッタ科の飛翔中の発音方法は未解明であるため、発音の操作実験は不可能であった。飛翔中の発音方法を解明するため、ショウリョウバッタの胸部背面を固定して宙づりの状態で飛翔させ、発音時の体の動きをハイスピードカメラで撮影した。
実験の結果、ショウリョウバッタのオスでは、後翅を振り上げる際に左右の後翅同士が接触するタイミングでよく発音していた。宙づり飛翔中に左右の後翅同士の接触を妨害すると、キチキチ音の発生も妨害されていた。また、胸部背面を固定していない自由状態の飛翔の様子をハイスピードカメラで撮影した動画からも、左右の後翅同士の接触時に発音していることが示唆された。なお、メスでも宙づり飛翔中に左右の後翅同士の接触する時に発音が確認されることがあったが、オスよりも羽ばたき時に左右の後翅を持ち上げにくかった。
この結果は、ショウリョウバッタのキチキチ音が左右の後翅同士の接触によって生じていることを示していた。左右の後翅同士を接触させる飛翔は小型の昆虫が離陸時の揚力を高める時などに使用される飛翔方法の1種であり、キチキチ音はこの飛翔方法をした際に生じてしまう音である可能性が示された。