| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(口頭発表) C01-05 (Oral presentation)
オス親が卵の保護(Paternal care)を行う代表的なコオイムシ科昆虫は、体(卵)サイズの大型化に伴う酸欠の解消がPaternal careの進化の要因とされている(Smith 1997)。そして、近年では性選択とオスの卵保護の相互作用が注目されている。本科のPaternal careの進化に体(卵)サイズの大型化が関与しているとすれば、体(卵)サイズの変異が見られる個体群間の比較から体(卵)サイズと配偶者選択の関係を明らかにできるかもしれない。そこで本研究では、体(卵)サイズの地理的変異の存在が知られるコオイムシの4個体群(北海道、茨城、兵庫、長崎)を使用し、メスの配偶者選択とオスの卵保護行動について個体群間比較を行うことで、卵サイズとメスの配偶者選択、オスの卵保護行動の関係を考察した。
メスの配偶者選択の観察では、1メス・2オスを同じ容器に入れ、求愛行動(総ポンピング数、ポンピングセット数、平均ポンピング数)、どちらのオスに産卵したかと産卵数を記録した。次に、オスの卵保護行動の観察では、卵保護中のオスの卵保護初期、中期、後期について30分おきに定位場所を観察することに加え、毎日の捕食量を記録した。
配偶者選択において、体サイズの小さなオスがメスに選ばれやすかった。これはメスにとって、必要な追加卵数の少ない体サイズの小さなオスが魅力的であると考えられる。そして、北海道個体群では、求愛に積極的なオスがメスに選ばれやすく、繁殖期が限られている個体群ではオスの求愛行動に強い性選択が働くことを示唆している。4個体群からの解析ではあるが、個体群ごとの平均卵サイズと配偶者選択の厳密さ(求愛行動を頻繁にするオスが選ばれる割合)の関係には緩やかな正の関係があり、卵サイズの大型化はメスの配偶者選択に影響していることが示唆された。ただし、卵保護行動には明確な個体群差はなく、茨城個体群は配偶者選択と卵保護行動中の捕食量などが他個体群とは異なっていた。