| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(口頭発表) C01-07 (Oral presentation)
野生動物の採餌戦略と環境変化への応対、行動を変化させることの柔軟性を理解するためには、採餌行動に伴う生理的負荷と、生理的負荷が採餌行動にどのようにフィードバックしているのかを評価することが重要である。生理的負荷の指標には、近年スポーツ科学などで疲労度の指標としてヒトで利用されている酸化ストレス計測がある。酸化ストレス計測では、呼吸によって生じる酸化度(疲労度)と、余剰な酸化度を除去する抗酸化力(回復力)を計測する。
育雛期の海鳥は繁殖地から餌場までを往復移動(採餌トリップ)して雛に餌を運ぶ。自分のためだけでなく雛のための採餌を行う必要のある育雛期は、親鳥にとって負担が大きい。酸化ストレスは海鳥の繁殖に負の影響を及ぼすことが示されており、酸化ストレス計測により海鳥の採餌行動に伴う生理的負荷を定量化できると考えた。
本研究では、GPS・加速度データロガーを用いて新潟県粟島で繁殖しているオオミズナギドリ(Calonectris leucomelas) の採餌行動を記録した。GPSデータから採餌トリップでの移動距離や移動時間を、加速度データから動きの大きさや離水回数を算出した。また、疲労度の指標として酸化度を、餌から得られる回復力の指標として抗酸化力を計測した。採餌行動と酸化ストレスの関係を検証し、主に以下2つの結果を得た。
1) 疲労度は最大到達距離と離水回数と正の関係があった(2019年)。このことから、遠くまで飛ぶことや高頻度の離水はオオミズナギドリにとって負担となると考えられる。
2) 回復力は動きの大きさ(ODBA; overall dynamic body acceleration)と正の関係があった(2018年)。このことから、ODBAは飛び込みなどの餌を獲得する行動と関係している可能性が示唆された。
今後、より詳細な行動分類や年比較、環境データの解析により、オオミズナギドリの採餌戦略や行動の柔軟性を理解できると期待される。