| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(口頭発表) C02-02  (Oral presentation)

ニホンウナギ稚魚の新たな被食回避行動の発見:捕食者の鰓孔からの脱出行動
Escaping behavior of Japanese eel ~escape thorough the predator's gill~

*長谷川悠波(長崎大学)
*Yuha HASEGAWA(Nagasaki Univ.)

 ニホンウナギAnguilla japonica はその資源的価値および形態・生態の特異性から、さまざまな研究が行われている。しかし、ニホンウナギの被食回避行動についての知見は極めて乏しい。そこで本研究では、実際の捕食者に対するニホンウナギの被食回避行動を明らかにすることを目的とした。
 本研究では、シラスウナギが成長し、体色が黒化した段階の稚魚(クロコ;69.4±8.90㎜, N=71)を使用した。また、本種と同所的に生息する夜行性の魚食性魚類であるドンコOdontobutis obscura(154.0±23.8 mm, N=4)を捕食者として使用した。実験に先立ち、暗幕で覆ったガラス水槽(450×450×450 mm)にドンコを1尾収容し、約1週間えさを与えて慣れさせた。ドンコが活発に摂餌を行うことを確認した後、筒型容器をその水槽内に設置し、ニホンウナギ稚魚を1尾投入し、10~15分間馴致させた。その後、ゆっくりと筒型容器を抜きあげ、ドンコにニホンウナギ稚魚を攻撃させた。その一連の攻防を水槽上方に設置した暗視ビデオカメラにより撮影した。
 ニホンウナギ稚魚が捕食者によって捕獲された後に、捕食者の鰓孔を通って口外へと脱出する行動が観察された。映像解析の結果、ドンコに捕獲されたニホンウナギ稚魚56尾のうち29尾(51.8%)が、この行動により鰓孔からの脱出を成功させた。また、鰓孔から脱出した個体を2日間隔離観察したところ、ほとんどの個体がその後も生存しており、死亡した個体は2個体のみであった。どの部位(頭部、胴部、尾部)から攻撃されても脱出はすべて尾部からであった。脱出に要する時間は6~130秒であり、ドンコの全長が大きいほど脱出時間が短い傾向があった(P<0.05)。以上の結果より、この行動はニホンウナギの稚魚期の生残に関わる有効な被食回避行動であると考えられる。


日本生態学会