| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(口頭発表) C02-05  (Oral presentation)

ハリガネムシ感染カマキリの入水行動に寄与する活動量と水平偏光走性の影響評価
Do polarotaxis and diel activity patterns explain the diving behavior of mantis infected by hairworms?

*大林奈園(神戸大学), 岩谷靖(弘前大学), 佐倉緑(神戸大学), 保智己(奈良女子大学), 佐藤拓哉(神戸大学)
*Nasono OBAYASHI(Kobe Univ.), Yasushi IWATANI(Hirosaki Univ.), Midori SAKURA(Kobe Univ.), Satoshi TAMOTSU(Nara Women's Univ.), Takuya SATO(Kobe Univ.)

寄生者はしばしば、宿主の光走性を改変して、宿主間の移動や産卵場所への移動を達成する。しかし、これらの光走性改変は、光の有無や強度の検証に留まり、その他の光の性質(スペクトル、偏光)に対する応答がどう改変されているのかはほとんど明らかにされていない。産卵のために陸生昆虫を水に入水させるハリガネムシ宿主操作においても、単純な光強度による光走性改変が入水行動の鍵であるとされてきた。しかし、異質性の高い光環境下で単純な光強度の改変だけで、水辺への入水確率が上がることは考えにくい。近年の研究から、多くの昆虫が水面からの反射光に含まれる水平偏光を手掛かりに、生息地や産卵場所の選択をしていることが明らかになりつつある。そこで、我々はハリガネムシ類が、陸生の宿主(カマキリ)の水平偏光走性を強化することで、効果的に入水行動を生起している可能性を示す。
非偏光と水平偏光、もしくは垂直偏光の選択実験を行ったところ、感染個体では、特に光強度が強いときに水平偏光に対する高い走性が認められたが、垂直偏光に対する走性は認められなかった。また、非感染個体では、いずれの偏光に対しても、明瞭な走性は認められなかった。光強度が低く偏光度の高い池(深く、底面が黒)と光強度が高く偏光度の低い池(浅く、底面が白)の選択実験を行ったところ、池に入水した感染カマキリ16個体のうち14個体(88%)は、水平偏光の出やすい池を選択していた。また、入水行動は正午前後に集中して観測され、これは感染カマキリの歩行量が上昇する時間帯と一致した。
本研究は寄生生物が宿主昆虫の偏光走性を改変することで、宿主操作を達成していることを示す初めての研究である。宿主操作研究において、光の性質(偏光, スペクトル)を考慮することで、宿主操作の至近メカニズムの理解が進む可能性を示す。


日本生態学会