| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(口頭発表) C02-07 (Oral presentation)
人間活動によって急速に進む環境変化と生物多様性の減少の影響を解明するため、「生物の多様性」と「生態系によって駆動されるさまざまな物質や現象(生態系機能)」との関係性(Biodiversity and Ecosystem Functioning)を明らかにしようとする試みが世界各地で行われるようになってきた。植物の種数を人為的にコントロールする実験から、植物の種多様性が高いほど、一次生産量や炭素固定といった植物群集によって生じる生態系機能が高くなることが明らかとなってきている。このような多様性操作実験を用いた研究では、植物多様性がもたらす植物群集の生産性や安定性への影響に着目している。しかし、植物の種多様性の変化の影響を受けるのは単一の栄養段階の種多様性や生態系機能だけでなく、複雑な生物間相互作用関係が変化する可能性がある。また生態系機能は、必ずしも植物群集のみによって生じるものではない。
異なる栄養段階の生物間相互作用によって生じる生態系機能の一つに、虫媒花と訪花昆虫の相互作用によって生じる送粉が挙げられる。虫媒花や訪花昆虫は、それぞれ「訪花昆虫の誘引・受粉」や「花粉や蜜の獲得」を効率よく行うため、相互作用に適した機能形質を有しているが、形質の多様性や特徴的な形質を持つ種の存在が、局所群集の種子生産性にどのような影響を与えるかはよくわかっていない。
本研究では、内モンゴル自然草原に設置された植物除去操作実験区での調査によって、局所群集における虫媒花の種多様性や花のアバンダンスが、虫媒花-訪花昆虫相互作用のネットワーク構造の変化を介して局所群集全体の種子生産に影響する連関関係が示唆された。加えて、花の大きさや色、昆虫の体サイズや翅の長さといった虫媒花と訪花昆虫の機能形質に着目し、植物の種多様性が虫媒花―訪花昆虫の相互作用を変化させる背景に存在する、機能的多様性や特定種の影響を考察する。