| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(口頭発表) C03-01 (Oral presentation)
佐渡島に生息する在来哺乳類はノウサギ(サドノウサギ)、サドモグラ、サドトガリネズミ、ネズミ類、コウモリ類である。離島であるため大型の植食性哺乳類は生息していないが、縄文時代の遺跡から出土したニホンイノシシの骨の遺伝解析では、本土集団と約30万年前に分化したと推定されている(Watanobe et al. 2002)。しかしながら、江戸時代以降の記録はないため、下層植生が豊かな自然環境が保たれていることが佐渡島の特徴の一つである。国内移入種として、ホンドテンやホンドタヌキ、ホンドイタチが挙げられる(佐渡島環境大全 2012)。さらに、近年佐渡の海岸にイノシシの死体が打ちあがる例が増えており、生存しての移入が危惧されている。
佐渡島への生物の移入の歴史を理解することは、生物の進化に関わる重要な知見を提供するだけでなく、佐渡島の成立を推測する一助になると考えられる。このため、本研究では、佐渡島の哺乳類を主とした分子系統学的研究をレビューし、さらにホンドタヌキ、ホンドイタチ、漂着イノシシについてのミトコンドリアDNAを用いた遺伝解析を行うことで、生物の移入の歴史を俯瞰することを目的とした。
遺伝解析による年代推定では、サドモグラは佐渡島の隆起が始まったとされる500万年前に分岐していた。その他の生物では、ミンデル=リス間氷期にあたる約20-30万年にイノシシ、アカネズミ、ハタネズミが、リス=ヴュルム間氷期にあたる約10万年前にヒメネズミ、サドノウサギ、サドガエルが、最終氷期以降の約1万年前にホンドイタチやクロオサムシなどの昆虫類が分岐するという、第四紀の気候変動に応答する傾向が見られた。なお、昨年度漂着したイノシシは本州中部地域からの移入と推定され、比較的近い場所からの漂着と考えられた。