| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(口頭発表) C03-02 (Oral presentation)
近年、新たな感染症が世界中で発生し、社会に対する脅威として大きな問題となっている。それら新興感染症の多くが野生動物に由来する事から、その感染環や感染拡大プロセスの理解,及び感染リスクの低減のためには、医学や獣医学だけではなく、生態学的視点からのアプローチが必要である。2013年に日本で初めて報告された重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、主にマダニに咬まれることで感染する野生動物由来の新興感染症である。時に重篤な症状を呈する急性熱性疾患であり、その致死率は6.3〜30%と報告されている。本研究では、このSFTSの感染リスクに影響し得る生態学的要因の解明を目指して、マダニとその宿主である野生動物、景観との関係について明らかにするために、SFTS発生地域において、15地点の調査地を設定し、以下の調査を行った。マダニについては2020年9月-2021年1月に、旗ずり法によって月に1度採集を行った。野生動物については2018年4月-2019年5月に自動撮影カメラを用いて生息状況を記録した。景観については環境省の植生図から情報を得た。それらの情報を基に、マダニと野生動物の群集構造、及び景観との関係を冗長性分析で検討した。その結果、マダニの採集数と野生動物の撮影枚数との関係、及びマダニと景観との関係は、マダニの種間、及び成長段階(若虫、成虫)で異なることが示唆された。これは、マダニ各種及びそれらの成長段階によって、宿主の選好性や脱皮、産卵に適する微環境等が異なる事を示している可能性がある。今後は、1年を通してマダニの採集を行い、マダニ各種の季節消長を把握し、調査地点の微環境、解析対象のスケール等をさらに検討する事で、SFTSの感染リスクに影響する要因の解明に繋がると考えられる。