| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(口頭発表) C03-11 (Oral presentation)
奈良県春日山では以前より国内外来種ナギ(Podocarpus nagi)の分布拡大が大きな問題となっている。ナギの侵入が在来植生に影響を与えていることは報告されているが、森林生態系の中で分解者として重要な役割を果たしている土壌動物に及ぼす影響については不明である。そこで本研究ではナギ林の形成が土壌動物群集と, その生態的機能である落葉分解に与える影響を調査した。なお本発表では時間の関係上、採取された土壌動物の中で最も個体数の多かったササラダニについて報告する。
調査地は発達段階の異なる3つのナギ林と、それぞれの調査地点に隣接する天然林を対照区とした計6地点で行った。土壌動物は各調査地点で採取した土壌からツルグレン装置を用いて抽出し、同定、計数を行った。落葉分解量の調査はナギの落葉と在来植物であるアラカシの落葉を用意し、土壌動物の侵入をコントロールできる2種類のメッシュバッグの中にそれぞれの落葉を入れ、林床に設置した。1年後に回収し、落葉重量の減少率から土壌動物の有無が落葉分解量に与える影響を調べた。
調査の結果、シンプソンの多様度指数を用いた多様度の比較では、ナギ林の発達段階が進むにつれ多様度が低下していた。また、落葉分解量の調査ではアラカシの落葉は土壌動物が侵入できるメッシュバッグで有意に分解量が多かったが、ナギの落葉は土壌動物の有無で分解量に有意な差はなかった。この結果から、ナギ落葉は在来植物の落葉に比べて土壌動物に好まれない可能性が示唆された。よって、ナギ林が発達することで林床のナギ落葉が増加し、ササラダニの多様性を低下させている可能性が示唆された。