| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(口頭発表) D01-03  (Oral presentation)

チリメンカワニナの感潮域集団における概潮汐リズム関連遺伝子
Circatidal-related genes in a tidal reach population of the freshwater snail, Semisulcospira reiniana

*横溝匠(千葉大・院・融合), 高橋佑磨(千葉大・院・理)
*Takumi YOKOMIZO(Grad. Sci. Eng., Chiba Univ.), Yuma TAKAHASHI(Grad. Sci., Chiba Univ.)

新規環境へと分布域を拡大する場合には、その環境に適応的な形質を獲得しなければならない。例えば、環境の周期的変動は生物の生活リズムに強い影響を与えるため、生息地の環境リズムに適応するためにはそれに同調した体内時計をもつ必要がある。河川では淡水性の種が汽水域まで進出するとき、潮汐サイクルがもたらす約12.4時間周期の環境リズムに直面する。そのため、汽水域に進出した集団は潮汐サイクルに同調した内在リズム(概潮汐リズム)をもつ可能性がある。本研究では、河川性巻貝チリメンカワニナに着目し、淡水域集団と汽水域集団の個体について行動と遺伝子発現のリズムを調べ、汽水域集団が概潮汐リズムを獲得したのかを検証した。淡水域と汽水域由来の個体を用いて実験室の恒常環境下で49時間の行動観察を行なったところ、汽水域集団のみが満潮時に活発になる約12時間周期の活動リズムを示した。次に、汽水域と淡水域で捕獲した個体を捕獲直後から49.6時間にわたり3.1時間間隔で固定し、RNA-seqにより各時刻における遺伝子の発現量を定量した。発現量に周期性のある遺伝子を探索したところ、淡水域集団では24.8時間周期の遺伝子が多かったのに対し、汽水域集団では12.4時間周期の遺伝子が多かった。これらの結果から、チリメンカワニナの汽水域集団が行動と遺伝子発現において概潮汐リズムをもつことが示唆された。そこで、発現に振動のあったいくつかの遺伝子と概日時計遺伝子Clockについて、長期間潮汐サイクルから隔離させた汽水域由来の個体に人工的な12時間周期の水位変動刺激を10日間与えたのち、3.1時間ごとの発現量をRT-qPCRによって定量したが、周期的発現はみられなかった。これは、与えた潮汐刺激が概潮汐リズムを再発現するには不十分なものであった可能性や、これらの遺伝子が概潮汐時計に関与していない可能性が考えられる。


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