| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(口頭発表) D01-05 (Oral presentation)
生殖隔離の進化は種分化において重要なプロセスであり、その進化には様々なメカニズムや要因が関与する。そのため、その解明には様々なアプローチはもちろんのこと、遺伝システムや生態の異なる分類群を対象とした研究が求められる。これまで、種分化研究ではショウジョウバエを中心とした倍数体に目を向けられてきたが、近年、無脊椎動物の約15%を占め、その遺伝システムの違いから種分化においても特有の傾向をもつと期待される半倍数体にも目を向けられつつある。しかし、半倍数体を対象とした研究は未だ数少なく、得られた知見の一般化や倍数体との比較には至っていない。オウトウハダニはダニ目ハダニ科に属する体長1mm未満の植食性節足動物であり、他のハダニ類同様、半倍数性の遺伝システムをもつ。本種はユーラシア大陸に広く分布し、バラ科木本に寄生するが、各国でリンゴやオウトウなどの害虫として問題になっている。また、先行研究によりフランスと日本個体群の間には生殖隔離が発達し、遺伝的変異があることが報告されている。そこで本研究では、フランスと日本だけでなく、トルコ、イラン、内モンゴル、中国、韓国から本種を採集し、交配実験と個体群間の遺伝距離推定を行い、その関係から本種における生殖隔離の進化速度を推定した。その結果、生殖隔離の強度は個体群の組み合わせにより異なり、遺伝距離と正の相関関係にあることがわかった。また、接合前隔離および接合後隔離として雑種の生存不能や不妊に要する遺伝距離(COI, mtDNA)は、それぞれ0.475-0.657、0.150–0.209、0.138–0.204(99.0-99.9% 隔離)と推定された。従って、半倍数体であるオウトウハダニにおいても、自然選択や遺伝的浮動などにより集団間で遺伝的変異が蓄積された結果、生殖隔離は発達するという、これまでの主流の見解は支持された。一方、接合前隔離の発達の遅さと隔離強度の非対称性が見られたため、本発表ではその要因について考察する。