| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(口頭発表) D01-07 (Oral presentation)
進化には遺伝可能な表現型変異が不可欠である。集団への遺伝的変異の供給量(進化可能性)は、それ自体が集団の表現型進化に応じて変化しうる。しかし、進化過程における進化可能性の動的な変化がマクロ進化パターンに与える影響はよく理解されていない。本研究では、「二種の生物の交雑帯において、進化可能性の動的な変化が種分化を不可避的に導く」という理論を提案する。この理論は二つのメカニズムに基づく。第一のメカニズムは、交雑による進化可能性の上昇である。交雑帯では遺伝的に離れた二種間の交雑が継続的に起きることで、別々の親種に由来する遺伝子が組み合わさった多様な新奇遺伝子型を持つ雑種が生み出され、遺伝子型・表現型の多様性が増加する。増加した多様性は、遺伝的ドリフトが偶発的な表現型進化を引き起こす効果を増幅する。その結果、交雑帯集団では交配形質(例:繁殖時期)を含む多くの形質の表現型が絶え間なく変化し続ける。第二のメカニズムは、交配隔離の進化による進化可能性の低下である。交雑由来の遺伝的多様性は交配形質の絶え間ない進化を導くが、交雑帯集団においてひとたび固有の新奇交配形質が進化すると、両親種からの生殖隔離が成立する。生殖隔離が成立すると、親種との交雑による遺伝的多様性の供給が途絶え、表現型進化が停止する。これらのメカニズムは、交雑帯における種分化を不可避的に導く。なぜなら、交雑帯では種分化が成立するまで交配形質の表現型が進化し続けるためである。この理論の妥当性は、個体ベース・モデルを用いた進化シミュレーションによって、(1)親種同士の遺伝的分化が十分に大きく、(2)交雑帯が親種の継続的な移入を中程度の強度で受けるという条件下において確認された。この結果は、自然選択や性選択に依存しない非適応的種分化の新規メカニズムを提案する。このメカニズムは、大部分が未解明である非適応放散を説明できる可能性がある。